ごみと下水から電力・熱・水素を地産地消、排出するCO2は植物工場にエネルギー列島2014年版(41)佐賀

バイオマスを活用した循環型のエネルギー供給システムが佐賀市で拡大中だ。清掃工場ではごみの焼却発電で排出するCO2を分離・回収して野菜の栽培にも利用する。下水処理場では消化ガスを使って電力と熱を自給自足するほか、ガスで水素を製造して燃料電池車に供給する体制を作り上げる。

» 2015年02月03日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 佐賀市は2014年度の「バイオマス産業都市」に選ばれた全国6つの地域の1つだ。地域のバイオマスを生かした都市づくりを政府が支援する制度で、バイオマスの活用プロジェクトに対して国から補助金を受けることができる。佐賀市のバイオマス都市構想は、ごみや下水といった日常生活に伴う廃棄物をエネルギーに転換する点に特徴がある(図1)。

図1 「佐賀市バイオマス産業都市構想」の全体像(画像をクリックすると拡大)。出典:農林水産省

 代表的なプロジェクトが2カ所で進んでいる。1つは「佐賀市清掃工場」のごみを利用した発電設備である。この清掃工場では2003年に発電と余熱利用が可能な循環型の焼却炉を導入して、エネルギーの地産地消に取り組んできた。発電能力は4.5MW(メガワット)で、工場内で消費した後の余剰電力が年間に約845万kWhもある。一般家庭で2350世帯分に相当する。

 従来は九州電力に売電してきたが、2014年6月から売電先を新電力(特定規模電気事業者)に切り替えた(図2)。同時に新電力を通じて市内の小中学校に電力を供給する方法に変えたことで、売電収入の増加と合わせて市の財政負担は年間に7000万円も軽減する見込みだ。

図2 「佐賀市清掃工場」の廃棄物発電による電力の地産地消。出典:佐賀市環境部

 廃棄物の再利用はそれだけでは終わらない。ごみの焼却時に発生するCO2を分離・回収して、野菜の栽培に利用する実証実験を2014年10月に開始した。清掃工場の中に設置したCO2分離・回収装置の隣に、面積が約2坪の小規模な植物工場を設置してレタスを栽培する(図3)。バイオマス発電で生じるCO2を再利用して、循環型のエネルギー供給の仕組みを進化させる試みだ。

図3 ごみの焼却時に発生するCO2を利用した植物工場(左)、CO2分離・回収装置(右)。出典:佐賀市環境部

 佐賀市のバイオマス産業都市構想の中で、もう1つの代表的なプロジェクトが「佐賀市下水浄化センター」の消化ガス発電である。下水を処理する工程で汚泥が大量に発生するため、汚泥を発酵させて消化ガスに転換する。その消化ガスを燃料に使って発電する方法だ。

 1台で25kWの発電能力がある小型のガスコージェネレーションシステムを2011年に16台導入した(図4)。合計で400kWの発電能力になり、年間に340万kWhの電力を供給することができる。下水の処理に必要な電力の42%を自給できるようになり、年間の電気料金が3000万円以上も低減した。

図4 「佐賀市下水浄化センター」の消化ガス発電設備。出典:佐賀市上下水道局

 消化ガスの発生量を増加させるために、地域の製材所が廃棄する樹皮のほか、食品の廃棄物なども加えて発酵処理に利用する。消化ガスを生成した後の残りは脱水して肥料に転換したうえで、市内の農家に提供している。さらに発電で余った消化ガスから水素も製造して、近隣の鳥栖市にある水素ステーションに供給する予定だ(図5)。

図5 消化ガスを活用したエネルギー創出事業。出典:佐賀市上下水道局

 佐賀県の再生可能エネルギーは太陽光とバイオマスの2種類を中心に導入量が拡大している(図6)。ただしメガソーラーの建設プロジェクトは九州電力による接続保留の影響から中断したケースも見られる。今後は太陽光よりもバイオマスのほうが有望で、焼き物で有名な伊万里市でも木質バイオマス発電所の建設計画が始まっている。

図6 固定価格買取制度の認定設備(2013年12月末時点)

*電子ブックレット「エネルギー列島2014年版 −九州編 Part1−」をダウンロード

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