電力も価格が変動する商品に、先物取引で15カ月先までリスクヘッジ動き出す電力システム改革(37)

小売全面自由化が始まると、電力も一般の商品と同じように需要と供給のバランスで価格が決まる。事業者や需要家が1年後に売り買いする電力の価格をキープするためには、先物取引が有効な手段になる。現在の卸電力取引所に先物市場を新設して、15カ月先までの電力を売買できるようにする。

» 2015年07月10日 15時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

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 電力システムを改革するうえで重要な課題の1つは卸電力市場の活性化だ。従来の電力会社を中心にした市場構造のままでは、小売電気事業者が臨機応変に電力を調達することが難しい。卸電力市場を通じて売買できれば、必要な電力を必要な時に適正な価格で調達することができる。

 国内では「日本卸電力取引所」(略称:JEPX)が唯一の卸電力市場で、現在は「スポット市場」を中心に3種類の市場で構成している(図1)。新たに「先物市場」などを開設して、売買できる電力の対象期間を広げる予定だ。このうち先物市場の概要がおおむね固まり、早ければ2016年度内に開設する。

図1 卸電力市場の拡大計画。出典:資源エネルギー庁

 先物市場は金融商品をはじめ貴金属や穀物などの取引にも使われていて、将来に購入する商品の価格を事前に決めて取引する仕組みだ。電力の領域でも事業者や需要家が年間の収支計画に基づいて売買するニーズは大きく、小売全面自由化後の早いタイミングで先物市場を新設することが求められている。

 政府が主宰する「電力先物市場協議会」の最終案では、2種類の取引を可能にする方針だ。1つは1日24時間分の電力を取引する「ベースロード」で、もう1つは平日の8時〜18時の10時間分の電力を取引する「日中ロード」である。いずれも1カ月単位で売買することができて、最長で15カ月先の電力を取引できるようになる。

 JEPXは2005年4月に取引所を開設して10年が経過した。当初は取引量が少なかったが、電力会社が政府の意向を受けて2013年3月から実施した「自主的取り組み」によって取引量が増えてきた(図2)。取引の大半は翌日の電力を売買するスポット市場が占めるものの、当日でも売買可能な「時間前市場」や、2カ月先までの電力を月単位・週単位で売買できる「先渡市場」のニーズもある。

図2 卸電力市場の月間約定量(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 どの市場でも売買価格は入札で個別に決まる。ただし新設する先物市場では取引を簡素化して利用者を増やすために、スポット市場の平均価格を適用する予定だ。スポット市場で標準的に使われている全国一律の「システムプライス」の月間平均を採用する(図3)。1カ月間の平均値ならば極端な価格の変動を避けることもできる。

図3 スポット市場のシステムプライスの値動き(電力1kWhあたりの単価。画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 JEPXで取引する卸電力は電力会社以外の小売電気事業者(現在の新電力)にとって重要度が高くなっている。新電力が調達する電力のうち、JEPXから調達する量が増えていて、2015年3月には2割近くをJEPXからの調達が占めた(図4)。その代わりに電力会社から供給を受ける常時バックアップの比率が低下して、独立性が高まってきた。卸電力市場が活性化すれば自由な競争が進むことを示している。

図4 新電力の月間調達量と調達ルート比率(画像をクリックすると拡大)。常時BU(バックアップ):調達量の不足分を電力会社が供給。出典:資源エネルギー庁

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