現在の電力システムが抱える大きな問題点の1つは、地域をまたいで需要と供給を調整できないことである。今後は地域を越えた需給調整を可能にしたうえで、卸電力市場を活性化させる予定だ。取引所を通じて地域間の流通量が拡大すると、全国で年間に1700億円の電力調達コストを削減できる。
第6回:「地域を超えた電力小売を加速、東京−中部間の連系を改善」
これから始まる電力システム改革では、全国レベルで市場を開放することが最大の課題になる。現在のような地域ごとに縦割りになっている市場構造のままだと、各事業者の活動範囲が限定されて、コストの安い電力が流通しにくい。
ある地域で余っている電力を別の地域にも流通できるようになれば、需要に合わせて電力を安く供給することが可能になる。その効果を資源エネルギー庁が試算したところ、年間に約1700億円にのぼるコスト削減を見込めることが明らかになった(図1)。
ただし必要な対策が2つある。1つは「広域メリットオーダー」と呼ばれるもので、地域に関係なく価格競争力の高い電源から選択できるようにして、日本全体の発電コストを抑制する仕組みを構築する。もう1つは地域間を結ぶ「連系線」の制約を解消して、地域をまたぐ電力の供給を最大限に実施できるようにすることだ。
広域メリットオーダーには卸電力市場を活用する。国内唯一の「日本卸電力取引所」には、電気事業者や一般企業が電力を売買できる市場がある。電力量と日時、希望価格などを提示して、条件が合えば取引が成立する。
ところが現在の連系線に制約があるために、地域間の売買を成立できないケースが数多く発生している(図2)。その結果、卸市場よりも高いコストの電力を地域内で調達しなくてはならない。
資源エネルギー庁の試算では、現在のような連系線の制約がある状態でも、広域メリットオーダーを実施すると、年間に約1100億円のコスト削減効果を期待できる。さらに連系線の制約を解消して広域メリットオーダーの規模を拡大すれば、約600億円のコスト削減が可能になって、合計で約1700億円の効果が見込める。
現時点で連系線の制約が最も大きいのは「北海道−本州間」、次いで「東京−中部間」である。政府は連系設備の増強を進める一方、2015年に業務を開始する「広域的運営推進機関」を通じて連携線の運用方法を改善する方針だ。卸電力市場の活性化をテコにして、「低廉で安定的な電力供給」を全国レベルで実現していく(図3)。
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