種子島には九州電力の内燃力(ディーゼル)発電設備が2カ所の発電所に分かれて合計9台あり、総出力は4万500kWになる(図3)。一方で再生可能エネルギーの発電設備は太陽光と風力の2種類で、当日に運転できる状態だったのは太陽光発電設備の合計1万739kWだった。
九州電力が前日に想定した5月5日の最大需要は1万7000kWである。この需要に対して、内燃力発電設備のうち出力が最も大きい6000kW機を3台運転することを決めた(図4)。内燃力発電設備は最低でも出力50%の状態を維持しないと、燃料の重油が不完全燃焼の状態になって排気などに問題が生じるためだ。
需要が1万7000kWの状況で内燃力の出力を合計9000kW以上で運転するためには、太陽光発電を最大8000kWに抑えなくてはならない。九州電力は太陽光発電の最大出力を約80%で想定して8600kW(1万739kW×0.8)と算出した。この結果、600kWの出力抑制が必要になると判断したわけだ。
広域機関は内燃力発電設備の組み合わせを変えれば出力抑制の必要がなかったことも想定して、九州電力にヒアリングした。しかし安定して運用することが困難であるとの回答で、広域機関から見ても妥当だった(図5)。こうして5月5日の出力抑制は適切だったと結論づけた。
広域機関が検証する点は出力抑制の判断が適切だったかどうかであって、実際の需給状況の検証までは含まれていない。公表した資料の中に需要と太陽光発電の出力の実績値を記載していないのは、そのためだろう。データの提供を九州電力に求めたかどうかは不明だが、想定の精度向上を改善点に挙げたことから推測すれば、実績値を入手して想定値と大きなかい離があることを確認したものと考えられる。
出力抑制の妥当性を判断するうえで、1つ不可解な点が残っている。種子島にある九州電力の「中種子変電所」に大型の蓄電池が設置されている(図6)。太陽光や風力の出力変動に対応するために2014年3月に導入したもので、最大出力は3000kWある。
5月5日の出力抑制を判断するにあたって、この蓄電池を活用することは想定しなかったようだ。600kWの出力抑制の代わりに、余剰電力を蓄電池に充電する方法も考えられた。しかし九州電力の需給見通しの中にも、広域機関の検証結果の中にも、蓄電池に対する言及はいっさいない。
中種子変電所の蓄電池は国の実証試験として2016年度末まで運用する予定になっている。営業用の設備ではないにしても、国家予算を使って導入したわけで、せっかくの機会に実効性を評価すべきではなかったのか。今後も出力抑制の可能性は大いにある。次回は最大限の回避策をとったうえで必要性を判断することが望まれる。
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