「低炭素電源」を2050年に9割超へ、温暖化対策で地域経済を潤す法制度・規制(1/3 ページ)

環境大臣の私的懇談会が国全体の温室効果ガス排出量を2050年までに80%削減するための長期戦略を提言した。地域の再生可能エネルギーを中心に排出量の少ない電源の比率を9割以上に高める一方、建物の低炭素化や都市のコンパクト化を推進してエネルギー消費量を40%削減する。

» 2016年03月02日 13時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 環境省が2月26日に公表した「気候変動長期戦略懇談会」の提言で注目すべきは、温室効果ガスの排出量を削減するだけではなく、削減に向けた対策を実施して地域経済を活性化させる点にある。地域の資源を生かして再生可能エネルギーを拡大しながら、都市と農山漁村のあいだに資金や人材が循環する仕組みを作り上げる構想だ(図1)。

図1 環境・経済・社会の統合的な向上を目指す「地域循環共生圏」(画像をクリックすると拡大)。出典:環境省

 この長期戦略が目指す温室効果ガス排出量の削減目標は2050年に80%である。政府が2012年にまとめた「第4次環境基本計画」で設定した。その後にパリのCOP21(国際気候変動枠組み条約第21回締結国会議)で合意した2030年に26%削減(2013年比)する目標の先に位置づけられる。ただし「2050年80%削減は現状の延長線上にはなく、現在の価値観や常識を破るくらいの取り組みが必要」と提言では主張している。

 懇談会が提言する2050年に80%削減する対策の方向性は3つある(図2)。第1は「エネルギー消費量の削減」で、家庭・企業・社会の全体で省エネ対策に取り組む。省エネ型の住宅やビルを増やすことに加えて、都市をコンパクトにして自動車の走行量を減らす。

図2 2050年の温室効果ガス排出量を80%削減する方向性。出典:環境省

 第2は「エネルギーの低炭素化」だ。再生可能エネルギーの拡大に合わせて、蓄電池や水素を活用したエネルギーの有効利用を促進する。電力のほかに太陽熱や地中熱、バイオマス熱などの利用量も増やす。一方で火力発電はCO2(二酸化炭素)の排出量を抑制するCCS(CO2回収・貯留)の機能を備えることが条件になる。

 このほかに低炭素の電源として「安全性が確認された原子力発電等が含まれ得る」と指摘しているものの、原子力発電の方向性に関する言及は避けた。経済産業省が2030年の電源構成(エネルギーミックス)で原子力の比率を20〜22%に設定したのと比べてトーンは低い。環境省の立場では、放射能による環境破壊の危険性がある原子力発電を促進することはむずかしいと考えられる。

 さらにCO2排出量を削減する第3の方向性として「利用エネルギーの転換」がある。ガソリン車に代わって電気自動車や燃料電池車を増やす一方、家庭や企業ではヒートポンプを使って熱エネルギーを冷暖房に生かす。

 こうした取り組みを通じて、2050年の最終エネルギー消費量を1990年比で約40%削減することが目標の1つになる(図3)。特に自動車関連の「旅客・貨物輸送」のエネルギー消費量が大幅に減る見通しだ。

図3 温室効果ガス排出量の削減目標を達成するイメージ(画像をクリックすると拡大)。出典:環境省

 電力の供給は年間の発電電力量のうち9割以上を「低炭素電源」が占める状態にもっていく。エネルギー消費量の削減と低炭素電源の拡大によって、2050年の温室効果ガス排出量を80%削減できる想定だ。削減量の比較対象は1990年か、それ以降の複数年を選ぶことが国際的な合意事項になっている。提言の中では1990年、2005年、2013年のデータを示した。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.