加部島沖の年間平均風速はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の風況予測モデルでは7メートル/秒を超えている(図4)。実際にライダーブイで計測したデータでも上空60メートルで平均風速が7メートル/秒になり、150メートルでは7.7メートル/秒を記録した。平均風速が7メートル/秒の場所では、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)が洋上風力の標準的な水準である30%を上回る。
潮流も最大で1.7メートル/秒を観測した。潮流発電には流速が1メートル/秒以上になることが望ましく、加部島沖は条件に合致する。日本の近海では流速が1メートル/秒を超える場所は少ない。加部島沖が潮流発電の有力な候補地であることは確認できた。
今から1年半ほど前に、加部島沖で潮流発電に挑んだプロジェクトがある。三井海洋開発が浮体式の潮流・風力発電システムを加部島の沖合1.2キロメートルの洋上に設置する実証実験だ。垂直軸で回転する水上の風車と潮流で回転する水中の水車を組み合わせた世界初のハイブリッド発電システムである(図5)。
システム全体の高さは69メートル、浮体部分の直径は29メートルもあり、重さが約1000トンに達する巨大な設備だ。発電能力は風力で900kW(キロワット)、潮流で50kWになり、風力と潮流を組み合わせることで天候の影響を受けにくい特徴がある。
三井海洋開発が2014年10月から洋上で設置工事を開始したが、12月半ばに天候が荒れて海底に沈んでしまった。強風と高波の影響を受けて沈没した可能性が大きい。三井海洋開発は天候の回復を待って装置を回収することを発表したが、その後の状況は明らかになっていない。潮流発電のむずかしさを示した事例と言える。補助金を機に新たに挑戦する企業の登場に期待したい。
佐賀県には国内の海洋再生可能エネルギーをリードする佐賀大学の「海洋エネルギー研究センター」がある。海洋温度差発電の研究開発では世界のトップレベルにあり、2013年から沖縄県の久米島(くめじま)で実証実験設備の運転を続けている(図6)。
久米島の海面近くを流れる25度以上の表層水と水深700メートルあたりで4度に近づく深層水を取り込み、2種類の海水の温度差を利用して最大で50kWの電力を作ることができる。この久米島の実績を生かして、海水の状況が良ければ佐賀県でも海洋温度差発電を実施できる可能性はある。
佐賀県では海洋エネルギーの産業クラスターの形成を目指して「J☆SCRUM(ジェイ・スクラム)」と呼ぶ産学官の組織を2015年12月に発足させた。民間企業48社に加えて、佐賀大学をはじめとする大学・研究機関、佐賀銀行などの金融機関、佐賀玄海漁業協同組合を含む地元の業界団体や自治体が会員に名を連ねる。補助金で開始する海洋再生可能エネルギーのプロジェクトに対して、県を挙げてバックアップする体制ができている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.