シビレエイで発電する、驚きの発電システムを理研が開発自然エネルギー(1/3 ページ)

理化学研究所は、シビレエイの電気器官を利用した新原理の発電機を開発した。

» 2016年06月03日 07時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

 水族館などで展示されているデンキウナギやデンキナマズ。こうした魚の電気を発電に生かせたら……。こうした発想は誰しもが子どもの頃に夢見たことだろう。これを現実のものにしてしまったのが、理化学研究所(理研)生命システム研究センター集積バイオデバイス研究ユニットのユニットリーダー田中陽氏らの共同研究グループである。

 デンキウナギやデンキナマズ、シビレエイなど強い電気を使って獲物などをとったり、身を守ったりする魚を「強電気魚」と呼ぶ。強電気魚は体内での変換効率が100%に近い効率的な発電を行っていることが特徴である。これはATP(アデノシン三リン酸)をイオン輸送エネルギーに変換する膜タンパク質(イオンポンプ、イオンチャネル)が、高度に配列・集積化された「電気器官」とその制御系である「神経系」を持っているからだとされている。共同研究グループでは、これを人工的に再現・制御できれば、画期的な発電方法となり得ると考え、シビレエイを対象に実験を行った。

シビレエイが発電する仕組み

 シビレエイは、デンキウナギ、デンキナマズと同じく強い電気を発生する強電気魚の1種だ。全長35センチメートルほどで、一部の種は日本近海にも生息している。今回使用した種の学名は「Narke japonica」だという。

 まず、シビレエイが発電する仕組みを説明する(図1)。

photo 図1 シビレエイの電気器官と発電細胞 出典:理研

 シビレエイは通常時、細胞膜に存在するイオンポンプ(エネルギーを使い、イオンの能動輸送を行う膜タンパク質の総称。作用結果として細胞内外にイオン濃度勾配が発生する)がATPのエネルギーを使って、細胞内外でイオン差(電位差)を生じさせている。ここで、神経線維の末端から放出された神経伝達物質のアセチルコリンが細胞膜に存在するイオンチャネル(細胞内外のイオン濃度勾配によって、受動的にイオンを通過させる膜タンパク質の総称)を刺激。これにより細胞外にあるナトリウムイオン(NA)が一気に細胞内に流入し、電流が発生するという仕組みだ(図2)。

photo 図2 シビレエイの発電の仕組み 出典:理研

 電気器官では、イオンポンプとイオンチャネルが細胞膜に多数集積することによって電流密度が増加する。さらに、細胞の直列積層により電圧を稼いで高出力発電が可能になっている。こうした「大規模集積構造」は天然にしか存在しないものだと理研は述べる。

 共同研究グループでは、田中氏らがこれまで研究してきた「細胞・組織機能のマイクロ流体デバイスへの実装技術」を応用することで、シビレエイの電気器官における高効率なATP発電システムが実現できると考えた。具体的には、シリンジ針を代替神経系に見立て、電気器官にシリンジ針を通し、それを押す圧力を利用し、アセチルコリンを器官全体に行き渡らせ刺激する方法を試みたという(図3)。

photo 図3 シビレエイによる発電機のコンセプト 出典:理研
       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.