硫黄で作る革新リチウム電池、安定した充放電サイクルを達成蓄電・発電機器(1/2 ページ)

次世代電池の1つとして期待されている「リチウム硫黄電池」。実用化に向けては、正極の放電反応により生成される多硫化物による性能の低下が課題となっている。産総研の周豪慎氏らの研究グループは、電池のセパレーターに「イオンふるい」の機能を持つ複合金属有機構造体膜を用い、安定した充放電サイクル特性を持つリチウム硫黄電池の開発に成功した。

» 2016年07月06日 09時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 産業技術総合研究所(以下、産総研)省エネルギー研究部門の首席研究員で、南京大学講座教授や筑波大学連携大学院教授などを兼務する周豪慎氏は2016年6月28日、筑波大学大学院システム情報工学研究科構造エネルギー工学専攻博士課程の柏松延氏らと共同で、安定した充放電サイクル特性を持つリチウム硫黄電池の開発に成功したと発表した。電池のセパレーターに「イオンふるい」効果を持つ金属有機構造体を利用することで実現した。

 電気自動車の航続距離拡大や再生可能エネルギーの有効利用などに向け、リチウムイオン電池の高性能化が期待されている。その中で産総研ではリチウムイオン電池の“次”を担う、より高性能な次世代電池として「リチウム空気電池」「ナトリウムイオン電池」などの研究開発を進めている。今回発表したリチウム硫黄電池もその1つである。

 リチウム硫黄電池は、正極材料に硫黄を用いた電池である。硫黄を用いた電極(正極)は、1グラム当たり1675mAh(ミリアンペアアワー)の電気量を蓄えられる。これは現在広く使われているリチウム金属酸化物を用いた正極では実現できない容量だ。そのため理論的には現在のリチウムイオン電池の数倍の重量エネルギー密度を可能にする次世代電池として、実用化が期待されている。硫黄は安価であり、手に入りやすい資源であるというメリットもある。

 一方、実用化に向けた課題も残っている。硫黄正極の放電反応により生成される多硫化物は電解液への溶解度が高く、正極から多硫化物が容易に溶出してしまう。さらに溶出した多硫化物が正負極間で酸化還元反応を繰り返すことで自己放電が生じ、充放電サイクルに伴って電池容量が大きく低下してしまう。こうした課題から、リチウム硫黄電池の実用化に向けた研究開発では「多硫化物の溶出を防止するための方法」がポイントになる場合も多い。

 しかし今回の研究グループが発表した成果は、こうした多硫化物の溶出を防止するのではなく、金属有機構造体による「分子ふるい」の効果でイオン種を分別して、多硫化イオンの正極側から負極側への移動を制限するという点が特徴だ。これにより正負極間で酸化還元反応を防ぎ、充放電サイクル特性の安定化を狙う。使用した金属有機構造体は、これまでも気体分子の吸着と分離を行うといった用途において、広く利用されているものだという。

図1 複合金属有機構造体膜を「イオンふるい」セパレーターに用いたリチウム硫黄電池のイメージ図 出典:産業技術総合研究所 
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