レアメタル不要の水素製造装置を実現、多孔質グラフェンの量産近づく蓄電・発電機器(1/2 ページ)

水を電気分解して水素を作る水素製造装置の触媒には白金などのレアメタルが使われており、これが設備の高コスト化につながっている。こうした現在の触媒に置き換わる新材料として注目されているのが3次元構造をもつ多孔質グラフェンだ。東北大学の研究グループは3次元構造をもつ多孔質グラフェンをワンステップで大量作製できる手法を開発し、さらにこれを用いた水素発生電極の作製に成功した。

» 2016年10月19日 13時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 東北大学原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)の伊藤良一准教授、陳明偉教授、阿尻雅文教授らの研究グループは2016年10月11日、ワンステップで大量作製が可能な3次元構造をもつ多孔質グラフェン作製手法を開発したと発表した。同時にその多孔質グラフェンから水素発生電極を作製することにも成功したという。白金などのレアメタルを使わない水素製造装置の実現につながる成果としている。

 次世代のエネルギーとして注目が集まる水素。最近では再生可能エネルギーで発生した電力を使い、水を電気分解して水素を製造する取り組みも始まっている。一方、水素製造に必要な電気分解装置は、高価なレアメタルの白金を水素発生電極として使用しており、これが設備の高コスト化につながっている。そのため、蓄電池などと同じく、水素製造装置においてもレアメタルを使わない、代替電極の開発が期待されている。

 こうした背景から研究グループでは、希少な白金などの貴金属の使用せず、金属を含まない炭素からなる多孔質材料を使用した水素発生電極の開発に取り組んできた。さらに単位多孔質材料を使った水素発生電極を開発するだけでなく、実用を見据え、その量産方法についても研究開発を進めている。

ワンステップで多孔質グラフェンを作製

 これまでの先行研究では理想的な状態を構築したモデル研究において、さまざまなタイプの炭素系水素発生電極の模索が行われてきた。その中で今回研究グループは「量産化に移行しやすいこと」を重要視し、多孔質グラフェンの材料として大量生産が可能なニッケルナノ粒子に着目。さらにこのニッケルナノ粒子からナノ多孔質構造を作製しながら「化学気相蒸着法(CVD)」を用い、ワンステップで多孔質グラフェンを作成することに成功した(図1)。従来の作製工程より大幅に手順を簡略化でき、それ伴う大きなコスト削減高価も見込めるという。

図1 ナノ粒子を加熱することで多孔質化し、そのまま連続してグラフェンを蒸着する工程のイメージ。グラフェン蒸着後はニッケルを溶解させることでグラフェンの単離が可能。ナノ粒子を基盤に塗布することでフィルム形状のグラフェンの作製も可能だという 出典:東北大学

 次にグラフェンの電極としての触媒機能を向上させるために、高い曲率を持つグラフェンに着目した。これまでのグラフェンは2次元平面であったために、触媒活性の基点となる化学ドーパント(グラフェンの格子内部に入れ込む炭素以外の異種原子)の導入が難しいという課題があった。そこで研究グループは高い曲率を持つグラフェンの幾何学的機械的に負荷が大きく構造が不安定であるという点に着目し、化学ドーパントを加えることで構造不安定性を解消させるのと同時に、従来の2次元平面構造より2〜3倍近い触媒活性点を導入する手法を開発。ピリジン、チオフェンとトリフェニルホスフィンをグラフェンの前駆体として用い、ナノ多孔質構造上に窒素、硫黄とリン元素を同時に含有したグラフェンを蒸着し、化学ドープを施したナノ多孔質グラフェン電極を作製した。

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