持ち運べる水素製造装置に、10億分の1メートル大の金の粒子が水と反応蓄電・発電機器

燃料電池に利用する水素を安価に作る手法の開発が各方面で進んでいる。大阪大学の研究グループは10億分の1メートル大の金の粒子を使って、水と有機化合物から水素を発生させることに成功した。金の触媒を出し入れして水素の発生を制御でき、持ち運べる水素製造装置に応用することが可能だ。

» 2016年11月29日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 大阪大学の研究グループが金を触媒に使って、水から水素を製造する手法を開発した。直径が1.9ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)程度の微細な金の粒子が水と有機化合物を反応させて水素を発生させる(図1)。

図1 水素を発生させる金ナノ粒子触媒(左)、電子顕微鏡による拡大写真(中央、右)。nm:ナノメートル(10億分の1メートル)。出典:大阪大学

 有機化合物は工業用のシリコーンを製造する時に生じる副産物で「ヒドロラシン類」と呼ばれている。安価に大量に入手できるうえに、大気中でも安定している点が特徴だ。ヒドロラシン類の溶液の中に、金ナノ粒子を付着させた触媒を入れると水素ガスを発生する(図2)。

図2 金ナノ粒子触媒の導入・除去による水素生成のオン/オフ制御(上)、反応式(下)。TMDS:テトラメチルジシロキサン、Me:メチル基、Si:ケイ素、O:酸素、H:水素、H2O:水。出典:大阪大学

 研究グループはヒドロラシン類のTMDS(テトラメチルジシロキサン)とPMHS(ポリメチルヒドロシロキサン)の2種類の溶液を使って水素ガスの発生量を測定した。金ナノ粒子触媒を溶液の中に浸けて最初の1分間に、TMDSでは18.9ml(ミリリットル)、PMHSでは9.8mlの水素ガスを発生させることができた(図3)。その後は時間の経過とともに水素ガスの発生量は少なくなっていく。

図3 水素ガスの発生量。単位:ミリリットル。TMDS:テトラメチルジシロキサン、PMHS:ポリメチルヒドロシロキサン。出典:大阪大学

 この水素製造方法の特徴の1つは、金ナノ粒子触媒を溶液に出し入れすることによって水素の発生を制御できる点にある。外部からエネルギーを加える必要がなく、水素を必要なときに簡単に製造することが可能だ。微細な金ナノ粒子触媒と有機化合物の溶液で構成できるため、軽量のパッケージに入れて持ち運べる。一般的な化石燃料から水素を作る方法と違って、CO2(二酸化炭素)を排出しないメリットもある。

 研究グループによると、小型で軽量のポータブル水素製造装置として実用化が期待できる。ポケットサイズの燃料電池に組み込んで電力を作ることも可能になる。安定した有機化合物を使って長期に保管できることから、災害時の非常用電源として避難所に常備する用途などを想定している。

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