電力会社が抱える電源を市場に、2017年度から販売量の10%めど動き出す電力システム改革(76)(1/2 ページ)

電力システム改革で重要なテーマの1つが卸電力取引の活性化だ。市場を通じて安い電力の売買が拡大すれば、事業者間の競争が活発になって電気料金の低下につながる。現状では電力会社が大半の電源を抱えていて市場の取引量は少ない。電力会社に一定量を供出させる新たな対策の検討が進む。

» 2016年12月02日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

第75回:「原子力発電所の廃炉費用を託送料金に、国策民営のもとで新制度へ」

 東京電力エナジーパートナーが市場取引で相場操縦に該当する行為を5カ月間も繰り返していた問題で、電力・ガス取引監視等委員会が11月17日に業務改善勧告を出したことは記憶に新しい。市場で取引する電力の売り入札価格を不当に高く設定した行為が相場操縦にあたるとみなされた。

 国内にある発電設備のうち、7割以上を電力会社(旧一般電気事業者)が保有している(図1)。その中でも最大手の東京電力グループが余剰電力を適正な価格で市場に供出するかどうかは取引に大きな影響を与える。発電設備を所有していない小売電気事業者(新電力)は市場を通じて大量の電力を調達する必要があり、取引量を増やせなければ顧客を維持・拡大することがむずかしくなってしまう。

図1 国内の発電設備の保有状況(2014年度)。PPS:特定規模電気事業者。出典:資源エネルギー庁

 政府は3年前の2013年から沖縄を除く電力会社9社に対して、卸電力取引を活性化するために自主的な取り組みを実施するように求めてきた。電力会社が保有する電源(発電設備)の余剰分を卸電力取引所(JEPX)に供出するほか、電源開発(J-Power)や地方公共団体と長期に契約している電源を可能な限り新電力に向けて切り出すことが主な内容だ(図2)。

図2 卸電力取引の活性化に向けた電力会社の自主的取組。BU:バックアップ。出典:資源エネルギー庁

 この取り組みの中で効果が大きい対策の1つは、電源開発の契約を電力会社から新電力へ切り替えることである。関係者の間では「電発(電源開発)電源の切り出し」と呼ばれている。電発電源の規模は全国で1800万kW(キロワット)を超えて、国内の電源の6%を占める。大半は火力発電所と水力発電所だ。

 火力発電所はコストの低い石炭火力だけに限定して、首都圏に1カ所、沖縄を含む西日本で6カ所に、合計15基の電源を保有している(図3)。一方で水力発電所は北海道から九州まで60カ所で運転中だ。これだけの電源の一部でも新電力に切り出せば、電力会社が市場から調達する量も増えて、卸電力取引が活発になる。

図3 電源開発の火力発電所(上)と水力発電所(下)。出典:電源開発

 ところが電力会社9社は電発電源の切り出しを実施・検討することを2013年に表明したものの、3年後の現時点でも進展していないケースが多く見られる。政府は2016年6月に開催した委員会で各社の状況と課題を洗い出したうえで改善計画をとりまとめた。その内容を見ると、原子力発電所を再稼働するまでのあいだは限定的な切り出しにとどめる電力会社が多い(図4)。これでは当面の効果は期待できない。

図4 電源開発(電発)が保有する電源の切り出しに関する課題(左)と改善計画(右)。出典:電力・ガス取引監視等委員会
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