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» 2017年01月17日 11時00分 UPDATE

蓄電・発電機器:水素の課題をクリアする新材料を開発、九大と産総研がラボ設立

水素関連の研究で多くの実績を持つ九州大学は、産業技術総合研究所と同大学内に「産総研・九大水素材料強度ラボラトリ」を設立した。水素社会の実現に向けて求められる水素インフラ材料の高性能化や低コスト化に向けた研究を加速させる狙いだ。

[長町基,スマートジャパン]

 産業技術総合研究所(産総研)は、政府関係機関移転基本方針(2016年3月22日「まち・ひと・しごと創生本部」決定)に沿って、このほど「産総研・九大水素材料強度ラボラトリ」(HydroMate)を九州大学と共同で設立した(図1)。

図1 産総研・九大水素材料強度ラボラトの概要 出典:産総研

 「気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」における2020年以降の新しい温暖化対策の枠組みの中で、日本は2030年までに26%のCO2排出量削減(2013年比)に取り組む方針だ。水素は利用段階ではCO2を排出しない究極のクリーンエネルギーと言われており、再生可能エネルギーなどを用いて製造することで大幅にCO2排出量を削減することができる。

 また、気象によって変動する再生可能エネルギーを水素に変換して蓄えることで、エネルギーの輸送や貯蔵が可能となり、地域を超えてエネルギーを有効活用することが可能となる。一方で、水素をエネルギーとして活用する「水素社会」の実現には、水素を安全に製造・貯蔵・輸送できるインフラの整備とその低コスト化が必要であり、安全性とバランスの取れた規制の確立や、信頼性が高く低コストの水素インフラ用材料の開発が不可欠だ。

 産総研と九大は、2006年7月〜2013年3月まで、「水素材料先端科学研究センター(HYDROGENIUS)」を共同で運営し、水素を安全・簡便に利用する技術・指針を産業界に提供するとともに、水素社会実現に向けた基盤整備を行ってきた。また、2013年4月以降も連携を継続し、水素ステーション用材料の鋼種拡大や燃料電池自動車用材料の水素適合性試験法作成に関するNEDOの研究開発プロジェクトも協力して実施している。

 九大は、高圧水素ガス中での材料強度評価に関して世界最高レベルの実績を持ち、充実した実用鋼のマクロ強度データベースの構築やそれに基づく水素脆化(ぜいか)現象(金属材料中に侵入した水素によって、金属材料の引張強さや伸びなどが低下する現象)の把握、さらには水素の影響を受ける材料の使用・設計指針の提案などに取り組んでいる。一方、産総研では水素環境中での材料の評価・観察に関して世界レベルの技術をもち、金属材料中の水素原子の挙動を把握することで、ナノレベルでの水素脆化現象の解明を進めてきた。さらに、両者は産業界との連携を通して、水素ステーション用鋼種の拡大や自動車用圧縮水素容器の基準の整備、国際基準との調和に貢献している。

 今回、両者は新たな産総研の研究拠点を九大伊都キャンパス(福岡市西区)に設置し、九大がもつ世界トップレベルの高圧水素ガス中でのマクロレベルの材料強度評価技術に基づく機械工学的な視点と、産総研の水素環境中でのナノレベルの材料組織評価技術に基づく材料工学的な視点を融合し、水素の安全で経済的な利活用のため、水素用材料の脆化現象の解明とそれに基づく新規材料の開発を目指した基礎的研究を行う。さらに、産学官ネットワークを構築して、これら成果の民間企業への「橋渡し」を実現していく(図2)。

図2 他のプロジェクトの連携も図る(クリックで拡大)出典:九州大学

 同ラボラトリではナノ・メソ・マクロ解析による水素脆化の基本メカニズム解明などの研究を行う。複雑な水素脆化現象を解明し、理想的な耐水素脆化材料を開発するためには、ナノレベルからマクロレベルに渡る幅広い知見の集約が必要であり、この研究では、高純度鋼などを対象として、引張試験やナノインデンテーションなどのマクロレベルでの材料強度評価を実施する。ナノインデンテーションは先端形状がナノメートルサイズの微小な圧子(主にダイヤモンド)を材料表面の微小領域や薄膜などに押込み、荷重と押込深さを計測することで、材料の微小領域の硬さ、ヤング率などを評価する方法だ。

 また、これらとともに有限要素シミュレーションによるき裂先端部の応力・ひずみ解析や、走査型プローブ顕微鏡(SPM)をはじめとする顕微鏡を用いた材料の破面や表面状態のナノレベルでの観察を通して、水素が材料の強度や組織に与える影響をナノからマクロレベルまでシームレスに把握していく。こうした取り組みにより、水素脆化現象の根源的な解明を進めることで、既存材料を超越する革新的な耐水素脆化材料の開発を目指す。

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