牛ふんで作った水素を燃料電池車へ、日本初の「水素ファーム」が稼働自然エネルギー

酪農が盛んな北海道の鹿追町に日本初の「水素ファーム」が誕生する。牛ふんを発酵させたバイオガスで水素を製造して燃料電池車に供給するほか、定置型の燃料電池で電力と温水を作ってチョウザメの飼育にも利用できる。CO2フリーの水素エネルギーを生かして循環型の地域社会を目指す。

» 2017年01月19日 07時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
図1 鹿追町の位置。出典:鹿追町役場

 鹿追町(しかおいちょう)は北海道の十勝地方にある人口5500人の町で、主要な産業は農業と畜産業である(図1)。町内で飼育する牛の数は2万頭を超えて、大量の牛ふんが毎日発生する。

 町の中心部から5キロメートルほどの距離にある「鹿追町環境保全センター」に、牛ふんから水素を製造して供給する「しかおい水素ファーム」が1月24日にオープンする予定だ。

 環境省が推進する「地域連携・低炭素水素技術実証事業」の1つで、家畜ふん尿からCO2(二酸化炭素)フリーの水素を製造して貯蔵・輸送・利用までの一貫体制を構築した日本で初めての「水素ファーム」である(図2)。

図2 家畜ふん尿を利用したCO2フリー水素サプライチェーン(画像をクリックすると全体を表示)。出典:環境省

 鹿追町環境保全センターでは牛ふんからバイオガスを精製して発電するプラントが2007年から稼働している(図3)。1日あたり1000頭分に相当する80トンの牛ふんを発酵させて、メタンを多く含むバイオガスを生産して燃料に利用してきた。

図3 バイオガスプラントの全景(水素ファームを設置する以前)。出典:鹿追町役場

 新たにメタン(CH4)から水素(H2)を製造する設備を導入したほか、貯蔵タンクや水素ステーションも併設する。牛ふんから作ったCO2フリーの水素を燃料電池自動車や燃料電池フォークリフトに供給する試みだ。

 さらに「カードル」と呼ぶ高圧ガスボンベを束ねた容器に水素を充てんして輸送する方式で、定置型の燃料電池でもCO2フリーの水素を利用できるようにする。環境保全センターではバイオガス発電の排熱を使って、キャビアを産むチョウザメの飼育にも取り組んでいる。今後は燃料電池で電力と温水を飼育施設に供給できる。

 同様にカードルを使って町内の酪農家や近隣の帯広市にある競馬場にも水素を輸送して燃料電池で利用する予定だ。地域で発生する大量の牛ふんが再生可能な水素エネルギーに変わり、CO2を排出しないエネルギーの地産地消が広がっていく。

 北海道では太陽光からバイオマスまで豊富に存在する資源を活用して、CO2フリーの水素を製造・貯蔵・輸送・利用できるサプライチェーンを道内各地に展開する構想がある(図4)。鹿追町のほかに北部の苫前町(とままえちょう)では風力発電の電力で水素を作り、東部の釧路市と白糠町(しらぬかちょう)では小水力発電の電力で水素を製造して利用する実証プロジェクトが進んでいる。

図4 北海道における水素サプライチェーン展開イメージ(2016〜2020年、画像をクリックすると拡大)。FCV:燃料電池自動車。出典:北海道環境生活部

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