再エネでアンモニアを合成、“欲しいときに欲しいだけ”自然エネルギー

早稲田大学と日本触媒は、電場印加した触媒上で低温かつ世界最高級の速度でアンモニアを合成できることを明らかにした。再エネの電力を使用する水電解技術を併用することで、オンデマンドで1日に数10〜100トン規模のアンモニア合成プラントの実現が期待できるという。

» 2017年06月09日 07時00分 公開
[庄司智昭スマートジャパン]

200℃程度で速やかにアンモニアを合成

 再生可能エネルギーなどを利用して、“欲しいときに欲しいだけ”アンモニアを作ることが可能――。早稲田大学と日本触媒は2017年6月、電場印加した触媒上で低温かつ世界最高級の速度でアンモニアを合成できることを明らかにしたと発表した。

 NH3の構造を持つアンモニアは肥料の原料として主に用いられており、年間1億6000万トン程度製造されている。そのまま燃やしても、分解して水素を燃やしても窒素と水しか生成されないため、再エネと組み合わせた水素貯蔵媒体としても期待されている。

 現在はハーバー・ボッシュ法と呼ぶ、100年以上前に確立された工業プロセスで製造されている。鉄系などの触媒を用いて、窒素と水素のガスから高温高圧でアンモニアを合成する方法である。熱交換などを加味すると効率の良いプロセスだが、高温高圧のため小型化しながらの高効率化は難しいという。つまり小型で可搬型は向かない。

電場中でのプロトンホッピングによる新たなN2Hを中間体とするアンモニア合成のスキーム。中央のRuは3nm以下の金属クラスターであり、下のSrZrOxは半導体性を有する担体という。この上で電場を印加することにより、水素イオンが表面をホッピングし(図中1)、N2と反応してN2H+中間体を経由して(図中2)、アンモニアが生成するという(図中3) (クリックで拡大) 出典:早稲田大学

 早稲田大学 理工学術院の関根泰氏らの研究グループは、直流電場を半導体触媒に印加した場合、低い温度でも速やかに反応が起こることを見いだし、アンモニアへの合成を進めてきた。この結果、Ru(ルテニウム)を担持した触媒に数Wの電力を印加することで、200℃程度の低い温度でも速やかにアンモニア合成ができることを発見した。

 日本触媒は同触媒を加圧化し、9気圧の条件において「世界最高レベル」とするアンモニア合成速度(30mmolg−1h−1以上)を実現。開発した合成プロセスは、これまでの課題だった水素被毒や窒素解離の遅さも解決するという。

1日に数10〜100トンの規模の実現へ

 反応の原因を電子顕微鏡観察、赤外分光分析などを用いた解析をすると、直流電場中の水素イオンのホッピングが反応を誘起していた。また早稲田大学院 理工学術院の中井浩巳氏らは計算科学を駆使し、N2Hが中間体になっていることを明らかにした。

 研究グループは、リリース上で「固体触媒では従来報告のないN2H中間体を経由するメカニズムで世界最高レベルのアンモニア合成速度を実現できた」とコメントする。

 今後は開発したプロセスと再エネの電力を使用する水電解技術を併用することで、オンデマンドで1日に数10〜100トン規模のアンモニア合成プラントの実現が期待できる。例えば遠隔地での肥料製造プラント、火力発電所における脱硝のためのアンモニア製造プラント、離島などの風力発電を活用したアンモニア燃料合成が考えられるとした。

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