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「成膜のコストを10分の1に」 GaAs太陽電池の普及へ、低コストな製造法を開発太陽光(1/2 ページ)

産業技術総合研究所 太陽光発電研究センターなどは、ガリウムヒ素(GaAs)太陽電池を低コストで高いスループットで製造できるハイドライド気相成長装置を開発したと発表した。

» 2017年06月16日 07時00分 公開
[庄司智昭スマートジャパン]

製造コストが高いガリウムヒ素太陽電池

 波長の異なる太陽光を有効利用できるように、吸収できる光の波長域が異なる複数の太陽電池を積層させた多接合太陽電池の開発が進んでいる。現在主流のシリコン(Si)などの単接合太陽電池の発電効率は、理論限界に近づいているためだ。

 多接合太陽電池の中でも、特にガリウムヒ素(GaAs)太陽電池は発電効率が優れていることから、多接合太陽電池のトップセルやミドルセル*)としての利用が期待されている。しかし、有機金属気相成長(MOVPE)装置を用いた従来の製造方法では、高価な有機金属を用いるため、製造コストを低減する技術が求められていたという。

*)トップセル、ミドルセル:3接合太陽電池の場合、最表面側に置かれている太陽電池をトップセル、中央の太陽電池をミドルセル、最も基板側に置かれるものをボトムセルと呼ぶ。トップセルにはバンドギャップが最も大きい半導体を使用し、それより短波長の光を吸収して長波長の光を透過させる。ボトムセルはバンドギャップが最も小さい半導体を使用し、トップセル、ミドルセルを透過した光を吸収する。

 産業技術総合研究所(産総研) 太陽光発電研究センターは2017年6月、大陽日酸と東京農工大学とGaAs太陽電池を低コスト、高スループットで製造できるハイドライド気相成長(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)装置を開発したと発表した。

開発したHVPE装置の反応炉と反応炉内の成長メカニズム (クリックで拡大) 出典:産総研

 産総研によると、HVPE装置は安価な純金属を原料に用いて成膜コストを低減でき、成膜スピードもMOVPE装置の10倍以上を実現できることから注目を集めている。しかし、成膜の高速性とナノメートルオーダーの制御性、均一性はトレードオフ関係にあり、太陽電池製造用のHVPE装置の商用機は開発されていないのが現状だ。

 また米国再生可能エネルギー研究所(NREL)が、太陽電池製造用途の縦型炉を試作しているが、縦型炉は商用機の実現に必要な成膜面積の大型化、大口径化が課題とする。

 産総研 太陽光発電研究センターは、2015年度からGaAs太陽電池の低コスト化に向けた研究開発を行っている。大陽日酸と東京農工大学は窒化ガリウム(GaN)バルク基板の製造用途として、水平置き縦型HVPE装置の開発を進めてきた。そこで3者は、GaAs太陽電池を製造する商用機開発を目指した水平置き縦型HVPE装置の開発に取り組んだ。

1時間当たり30μm以上の高速成長を実現

HVPE装置を用いて作製されたGaAs太陽電池の構造図。バリア層は発生した電子と正孔が逆流することによる損失を抑える役割があるという 出典:産総研

 開発した反応炉は、ガリウム(Ga)やインジウム(In)の原料金属を入れたボートが設置されている原料部と、GaAs基板が設置される基板部から構成された非真空でシンプルな装置構成である。MOVPE装置と比較して、装置導入コストの低減が可能になるという。

 原料部と基板部は独立した電気炉ヒーターによって、それぞれ850℃と710℃に加熱されている。HVPE装置は塩化水素(HCl)ガスを用いるので、反応炉や原料ノズル、原料ボートは腐食耐性に優れた石英で作製。GaAs太陽電池は、GaAsやインジウムガリウムリン(InGaP)層を含んだ多層構造で構成されている。

反応炉内の概略図 (クリックで拡大) 出典:産総研

 成膜に必要な塩化ガリウム(GaCl)や塩化インジウム(InCl)は、ノズルから供給されるHClガスとボート内の原料金属が反応して生成される。外周ノズルからはアルシン(AsH3)、ホスフィン(PH3)、n型、p型を制御するドーピング原料の硫化水素(H2S)、ジメチル亜鉛(DMZn)などを供給する。これらの原料ガスは同じラインから供給される水素(H2)キャリアによって混合、均一化されながらGaAs基板に輸送して成膜。HClガスと原料金属が効率よく反応できるよう石英ボートを設計し、一般的なMOVPE装置では困難だった1時間当たり30μm以上の高速成長を実現できたとしている。

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