世界トップを目指す日本の水素戦略、再エネ水素は2032年に商用化エネルギー管理(1/2 ページ)

政府は日本での水素社会の実現に向けた行動目標を示す、「水素基本戦略」を固めた。コストと低減と水素需要の拡大に向け、さまざまな実現目標が盛り込まれた。

» 2018年01月12日 09時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 エネルギー供給の多くを海外に依存する日本のエネルギーセキュリティ向上、さらには地球温暖化防止に向けた“脱炭素化”の切り札となる新しいエネルギーとして期待されている水素。政府は2020年の東京五輪を“水素社会の見本市”とすべく、これまでも水素エネルギーの普及を強く後押ししてきた。一方で、実際に水素の利用を広げるためには、調達方法、コスト、そもそもの需要拡大など、多くの面で課題が残されているのも事実だ。

 政府は2017年12月26日に「第2回再生可能エネルギー・水素等閣僚会議」を開き、「世界に先駆けて水素社会を実現する」という目標に向けた戦略的ロードマップ「水素基本戦略」を策定した。2050年に目指す水素社会のビジョンの実現に向けた、2030年までの具体的な行動計画を盛り込んでいる。その中で、水素のコストを2050年にガソリンや液化天然ガス(LNG)と同等程度まで引き下げるという意欲的な目標を掲げた。

「第2回再生可能エネルギー・水素等閣僚会議」の様子 出典:首相官邸

水素の価格を現状の5分の1に

 水素基本戦略は大きく分けて「水素の調達・供給コストの低減」と「水素の利用方法の拡大」が核となっている。

 1つ目の調達・供給コストの低減は、水素社会の実現には不可欠な水素コストの低減に向けた戦略だ。具体的には、海外の安価な未利用エネルギーと、再生可能エネルギーを利用して、水素を大量調達できるサプライチェーンの構築を目指す。海外から液化水素を調達する、国際的な水素サプライチェーンの開発にも取り組む。水素の大量調達・供給を実現し、コスト低減を推し進める考えだ。

 政府は現時点における国内の水素供給量は年間0.02万トン、水素ステーションなどで供給されている価格は100円/Nm3(ノルマルリューベ)と試算している。2030年には商用の水素サプライチェーンを構築して供給量を年間30万トンまで拡大し、価格は現状の約3分の1となる30円/Nm3まで引き下げる。以降は国際サプライチェーンを拡大して調達量を増やし、2050年には供給量1000万トン、価格は20円/Nm3を目指す。

「水素基本戦略」の概要 出典:経済産業省

 現状、国内で供給されている水素の大半は、工場の副生水素や天然ガスを改質して製造されたものだ。水素基本戦略ではこの一部を、再生可能エネルギーの電力で製造した水素に置き換えていく方針を掲げる。これは再生可能エネルギーの利用拡大に求められる、余剰電力の貯蔵にも役立つ。しかし商用化を図るためには、水を電気分解して水素を作る「Power to Gas(P2G)」技術のコスト低減が課題となる。

 そこで、P2G技術の中核である水電電解システムについて、世界トップレベルのコスト競争力を実現すべく、2020年までに5万円/kW(キロワット)を達成できる技術を確立するという目標も盛り込んだ。そして、2032年には再生可能エネルギーの電力で製造した水素の商用化を目指す方針だ。2016年に改訂した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」で掲げていた2040年代の商用化目標を前倒したかたちになる。将来的には国内の再生可能エネルギーの導入状況に合わせて、輸入水素と同等のコスト実現を目指す。

 一方、海外から輸入する水素については、褐炭などの安価な未利用エネルギーを利用して製造する方針だ。その際に求められるのが、製造時に排出するCO2を分離・回収する技術の確立だ。未利用エネルギーによる水素製造も、再生可能エネルギー由来の水素と同様に、CO2フリーを目指す。同時に有機ハイドライドやアンモニアなど、水素の貯蔵・輸送の低コスト化に寄与するエネルギーキャリアの活用技術の確立にも注力していく。さらに、欧米では既に実用化されている、水素を輸送するパイプラインの構築についても、技術的課題の抽出や、規制の見直しも実施する方針だ。

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