ペロブスカイト太陽電池の実用化へ前進、寿命・製造を改良する新材料太陽光

東京大学が次世代太陽電池として期待されているペロブスカイト太陽電池に用いる、新しい正孔輸送材料を開発。実用化に向けた課題である電池寿命の向上などに大きく寄与するという。

» 2018年04月10日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 東京大学の研究グループは2018年4月、次世代太陽電池として期待されているペロブスカイト太陽電池向けの新しい正孔輸送材料を開発したと発表した。ペロブスカイト太陽電池の実用化課題である、寿命や安定性を大きく向上させるとともに、製造工程の改良にも寄与するという。

 塗布プロセスで製造できるペロブスカイト太陽電池は、現在主流のシリコン系の太陽電池と比較し、高い変換効率と低い製造コストが期待できるため、次世代の太陽電池として注目されている。世界中で活発に研究開発が進んでおり、既に20%を超える変換効率を記録する例も登場している。一方、実用化に向けた課題として残っているのが、安定性の問題だ。

 ペロブスカイト太陽電池は、鉛ペロブスカイト結晶(光活性層)に光を当てて励起(れいき)状態を作り、そこから生じる「電子」と「正孔」をそれぞれアノード(陰極)とカソード(陽極)に「取り出し」、外部の回路につなげて電流を取り出している。この「取り出し」は電子と正孔に親和性の高い材料を光活性層の上下に接合することで人工的に行っており、ここに用いる材料の選択が、太陽電池の効率および素子の寿命に大きな影響を与えることがわかっている。そのためグローバルに、有機、無機を問わず最適な材料を求める研究開発が盛んに行われている。

 その中で特に問題だとされているのが正孔輸送材料だという。電子輸送材料(ETM)には、電子を引きつけやすいフラーレン(C60)をはじめとする良い材料が知られている。一方、正孔輸送材料(HTM)は、正孔を受け取った(電子を放出した)状態で安定な化合物が必要になるものの、あまり適切な材料が知られていなかった。これまで正孔輸送材料として広く利用されていたポリ(PEDOT)とポリエチレンスルホン酸(PSS)で構成する水溶性導電性高分子材料の「PEDOT:PSS」は、高い性能を持つ。ただし、その性能は強酸性という性質によるもので、この特性に伴う吸湿性が、活性層や電極など素子を損ってしまうという課題があった。つまり、太陽電池の寿命低下を引き起こしてしまう。

 今回新しい材料を開発した中村特任教授らの研究グループは、こうした課題を解決するため、PEDOT:PSSに替わる新しい正孔輸送材料の開発に取り組んだ。開発したのが酸性ではなく、中性の「BSPSO(ジソジュ−ムベンゾジピロールスルフォネート)」だ。正孔移動度が高く(正孔を取り出しやすい)、有機溶媒に溶けやすいのが特徴という。さらに、BDPSOを正孔輸送層に用いると、HOMO(最高被占軌道)エネルギー準位とペロブスカイトの価電子帯準位の配置を適切に調節でき、電荷抽出の高速化と光電流の増加が可能になるという。また、ペロブスカイト太陽電池の研究開発で問題になる、測定条件によって素子特性が変わるヒステリシスも全く無く、17%のエネルギー変換効率を得られたとする。

ペロブスカイト太陽電池の動作原理と、開発した正孔輸送材料「BDPSO」の特徴 出典:東京大学
BDPSOを正孔輸送材料として用いたペロブスカイト太陽電池の電流−電圧曲線 出典:東京大学

 PEDOT:PSSを用いた素子では空気中保存下で急激に性能が劣化したが、BDPSOを用いた場合は空気中でも安定で、35℃の連続光照射下でも、初期性能の90%を1300時間以上維持できたという。

 作りやすさも特徴となっている。市販の安価な有機物から最短2段階で合成でき、かつ再結晶で容易に精製できるという。これまで開発されてきたさまざまな正孔輸送材料の中でも、「最も容易に入手可能な材料」(東京大学)としており、太陽電池の低コスト化にも寄与するとしている。

BDPSOの合成経路 出典:東京大学

 研究グループは今回の成果について「ブスカイト太陽電池の実用化へと、さらに一歩迫る成果」としており、今後も引き続き新規材料の開発を行い、同太陽電池の早期実用化を目指すとしている。

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