“低コスト”蓄電池の実現に期待、カリウムイオン電池の正極材料を新開発蓄電・発電機器

産業技術総合研究所らの研究グループは、カリウムイオン電池用の4V級酸化物正極材料を新たに開発。低コストなカリウムイオン電池の実現を後押しする成果だという。

» 2018年09月28日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 産業技術総合研究所(産総研)電池技術研究部門次世代蓄電池研究グループらは2018年9月、カリウムイオン電池用の4V(ボルト)級酸化物正極材料を開発したと発表した。低コスト蓄電池システム普及への貢献が期待される成果だという。

 カリウムイオン電池は、資源的に豊富で低コストが期待されるカリウムを用いるという利点から、リチウムイオン電池に続く次世代蓄電池技術として期待され、研究開発が進められている。現在までカリウムイオン電池用正極材料の作動電位は、プルシアンブルー系で4Vが達成されているが、熱安定性に優れ、より信頼性の高い酸化物材料では3V程度にとどまり、高い作動電位を示す新しい酸化物材料が求められていた。

 研究グループはまず、これまで発見したカリウム含有複合酸化物の結晶構造を解析し、カリウムイオンの拡散障壁のエネルギーを計算。さらに拡散障壁が低い化合物群について、論理計算により作動電位を見積もり、正極材料として有望な酸化物の選定を行った。

合成した材料の一例(左)とカリウムイオン電池の原理図(右) 出典:産総研

 選定した酸化物の作動電位を実測し、作動電位が約4Vという層状型構造の化合物「K2M2TeO6(K2/3M2/3Te1/3O2)」を発見した。この化合物群は、比容量が理論値で130〜140mAhg-1、平均作動電位は3.6〜4.3V(vs.K+/K)、正極材料ベースでのエネルギー密度は470〜600Whkg-1。このエネルギー密度は従来の酸化物材料に比べて極めて大きく、現行のリチウムイオン電池用正極材料のエネルギー密度(600Whkg-1程度)に匹敵するという。

 金属元素Mをニッケル(Ni)に置き換えたK2/3Ni2/3Te1/3O2は、比容量の理論値が130mAhg-1に対し、実測値は70mAhg-1となった。平均作動電位は3.6V(vs.K+/K)が可能である。また、Niの一部をコバルト(Co)やマグネシウム(Mg)などに置き換えると、作動電位を4.3V(vs.K+/K)まで高められることが分かった。

正極材料とその平均作動電位を実測した値 出典:産総研

 研究グループは、K2/3M2/3Te1/3O2の作動電圧を実測した値が、従来の層状型酸化物正極材料より高い理由も調査した。論理計算によると、結晶構造中にあるTeO6の働きによることが分かった。これは、カリウムがハニカム型の層状構造を構成しており、カリウムイオンが2次元的に高速拡散する経路となるためで、高出力の正極材料として期待できるという。

開発したK2/3M2/3Te1/3O2の結晶構造とカリウムイオン拡散経路を示したモデル図 出典:産総研

 さらに研究グループは、K2/3M2/3Te1/3O2型の複合酸化物が、高いカリウムイオン電導性を持ち、固体電解質として利用可能であることも明らかにした。例えば、マグネシウムを用いたK2/3Mg2/3Te1/3O2のイオン電導性は、300℃で38mScm-1と極めて高い値を示した。室温に近い作動温度の材料を開発できれば、全固体カリウムイオン電池を実現できる可能性があるという。

 研究グループは今後、カリウムイオン電池を構築するため、今回の成果を生かして正極材料の性能を向上させるとともに、それらに適した負極と電解液、固体電解質の開発を推進する方針だ。

 なお、今回の研究は、産総研 電池技術研究部門次世代蓄電池研究グループの鹿野昌弘研究グループ長とマセセ タイタス研究員、2新規化合物の構造解析を行ってきたNanjing University of Posts and TelecommunicationsのHuang,Zhen-Dong准教授、放射光施設を用いてリチウムイオン電池用正極材料の充放電機構を研究している立命館大学生命科学部応用化学科の折笠有基准教授らの研究グループらが共同で行った。

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