スマートエネルギーWeek 2019 特集

拡大する燃料電池システム市場、2030年度は5兆円規模か――富士経済予測蓄電・発電機器

調査会社の富士経済が燃料電池システムの世界市場調査の結果を公表。2030年度の世界市場規模は2017年度比で28倍となる4兆9275億円に達すると予測した。

» 2019年01月23日 07時00分 公開
[長町基スマートジャパン]

 調査会社の富士経済は2019年1月、燃料電池システム世界市場の調査結果を「2018年版 燃料電池関連技術・市場の将来展望」にまとめた。それによると、2030年度の燃料電池システムの世界市場は4兆9275億円(2017年度比28.0倍)で、そのうちアジア市場は2兆1301億円(同49.8倍)に達すると予想している。

燃料電池システムの用途分野別世界市場の推移予測 出典:富士経済
需要エリア別にみた世界市場シェアの予測。アジアの成長が顕著に 出典:富士経済

 2017年度の燃料電池システム市場は産業・業務用、燃料電池自動車(FCV)、駆動用が市場をけん引し1757億円となった。主要各国では、2025年または2030年の普及目標に向けた技術支援が続いており、エネルギーの多様化、低炭素社会の実現に向けた燃料電池システムの普及促進が図られている。また、各用途で市場拡大に伴いシステムコストの削減が進み、今後補助金に依存しない産業自立化が実現するとみられる。こうした背景から、2025年度に市場は1兆円を超え、2030年度には約5兆円と予測した。

 タイプ別にみると産業・業務用は米国・韓国の導入補助制度を背景に市場は堅調に拡大している。既存の燃料電池は安価な天然ガスを原燃料として用いることが多いが、低炭素化を推進する目的で水素燃料やバイオガスを用いた実証実験が進められている。

 駆動用は、これまで主な商品が燃料電池フォークリフトに限られていたが、トヨタ自動車が量産型FCバスを2018年に発売したほか、欧米ではFCバス・トラックでのフリート走行実証が行われた。中国では普及目標が掲げられ、FCバス・トラックの生産が急増している。2030年度には中国が市場をけん引し、2017年度比49.0倍の1兆4511億円になるとみられる。

 FCVは2017年に新車種の投入が見られなかったため、市場成長は鈍化しているものの、2018年は韓国の現代自動車が「NEXO」を投入するなど、2020年にかけてさらに参入メーカーが増加すると予想している。また、2021〜2025年にかけては主要地域における水素ステーションの整備が進むとともに、2025年ごろからは量産体制が整うことでコストダウンが実現し、普及が進むと予測した。また、水素ステーションの稼働率が上昇することで運営自立化が徐々に進展するとみられる。補助金に依存しないで市場の拡大が見込まれ、2030年度には2017年度比111.5倍の2兆2084億円になると予測した。

 需要エリア別にみると、アジア(中国・韓国)市場が急拡大するとみられる。電気自動車(EV)が普及している中国ではFCVの普及を促すような政策の転換がみられ、特にFCバス・トラックの生産が急増している。また、韓国では導入補助制度を背景に産業・業務用をベースに、FCVやFCバスの普及に注力しており、欧州はFCVが市場をけん引する。インフラ整備、技術実証が進められた後、2020年ごろから主要国で拡大するとの見方だ。

 主要スタック部品市場についてみると、固体高分子形燃料電池(PEFC)は主にFCVやFCフォークリフト、FCバスなどに用いられており、これらが市場をけん引し、2017年度は141億円となった。また、水素ステーションの普及が課題となり、本格的な市場形成には時間がかかるものの、水素エネルギー・燃料電池システムの普及拡大に向けた官民一体の施策が各国で進められている。近年は中国におけるFCV、FCバス・トラックの商品化・技術開発が活発化しており、電気自動車(EV)に続き燃料電池システムに関する関心が高まっている。

 固体酸化物形燃料電池(SOFC)スタック部品は産業・業務用向けが市場の大半を占める。コストの削減やシステム実証が進んでおり、参入メーカーが増加している。日本でも、2017年に京セラ、三浦工業などが商品化を開始し、今後も市場参入を予定しているメーカーがある。SOFCは作動温度が高温であるため、セラミックスおよび耐熱金属以外の材料選択が難しく、作動温度の低温化による安価な材料代替に向けた開発が進められている。今後は産業・業務用、家庭用での採用が市場をけん引していくとみられる。

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