Innovative Tech(AI+)
米国「中国にはAIチップを輸出規制」→テンセントら中国AI企業は回避 “4つの回避法”とは?
Innovative Tech(AI+):
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
米カリフォルニア大学バークレー校に所属する研究者らが発表した論文「Whack-a-Chip: The Futility of Hardware-Centric Export Control」は、中国のAI企業が米国の半導体輸出規制を回避して最先端のAIモデルを開発している実態を、テンセントの事例を中心に技術的・制度的な観点から分析した研究報告である。
米国は技術的優位性を維持するため、大規模言語モデル(LLM)の開発に不可欠な高性能チップの輸出規制を通じて、中国のAI研究開発を制限しようとしてきた。しかし、中国のAI企業は、米国の半導体輸出規制を巧みに回避し、最先端モデルを開発している。
テンセントが公開した情報の分析によると、同社は輸出規制対象のNVIDIA A100やH100チップを使用していたことを確認できる。同社が5月に発表した画像生成AI「HunyuanDiT」のプロジェクトリポジトリには、NVIDIA A100 GPUを使用して実験を行ったことを明示的に記載していた。
また、9月に発表したビデオゲーム生成AI「GameGen-O」(後にGameGen-Xと改称)のプロジェクトでは、8台のNVIDIA H100を実験に使用したことが論文中で言及されている。では一体どのようにして、半導体の輸出規制を回避しているのか。
半導体輸出規制を回避する“4つの方法”
中国企業は主に4つの方法で米国の半導体輸出規制を回避していることが明らかになった。
第1の方法が「規制前の大量購入」である。中国企業は新しい規制が導入される前に、規制対象となりそうな半導体を大量に購入して備蓄している。例えば現在、NVIDIA H20チップへの規制が検討されているため、中国企業はこのチップの購入を急いでいるとされている。
第2には「違法な調達ルート」の活用がある。個人から大規模な市場まで、規制対象の半導体を取り扱う第三者販売業者が存在する。これらの業者は、規制のない国の企業を通じて半導体を調達したり、ブラックマーケットで過剰在庫を購入したりして中国企業に供給している。また、規制対象リストに載っていない子会社を通じた調達もしている。
第3の方法は「クラウドサービスの利用」である。一部の中国企業は、クラウドコンピューティング企業を通じて規制対象のチップにアクセスしている。例えば、米国の制裁対象となっている中国企業のiFlyTekやSenseTimeといった企業が、AI-Galaxyというクラウドコンピューティング企業を通じてNVIDIA A100チップを使っていたという報告がある。
第4は「ソフトウェアによる性能制限の克服」である。テンセントは11月に公開したLLM「Hunyuan-Large」の開発において、NVIDIAのH20チップを使用。H20チップは本来、H100チップの性能を約4分の3に抑えたものである。
しかし、テンセントは複数の小さなAIモデルを組み合わせる手法「Mixture-of-Experts」や、計算精度を下げて処理を効率化する技術「bfloat16」、大容量メモリを活用した並列処理、GPU同士を直接接続する技術「GPUDirect RDMA」、データの分割処理を最適化するライブラリ「DeepSpeed」の活用などの最適化技術を駆使することで、この制約を克服している。
また、中国企業は規制対象のデータセンター向けGPUの代わりに、一般のゲーミング用GPU(RTX 3090や4090)をAI開発に転用している。6月に中国企業Tinyが開発した独自ドライバーにより、これらのGPUの接続制限が解除可能となり、規制対象のGPUに近い性能を引き出せる可能性が出てきている。
米国の半導体輸出規制は、中国企業による規制回避や国産開発の進展により、効果が限定的になっている。今後は単純な規制強化ではなく、公共安全を脅かすAIの使用事例の特定、明確なベンチマークの設定、継続的な能力評価による包括的な検証体制の構築が必要ではと、研究チームは指摘している。
Source and Image Credits: Gupta, Ritwik, Leah Walker, and Andrew W. Reddie. “Whack-a-Chip: The Futility of Hardware-Centric Export Controls.” arXiv preprint arXiv:2411.14425(2024).
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Innovative Tech(AI+)
2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその“AI編”として、人工知能に特化し、世界中の興味深い論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
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