メディア
ITmedia AI+ >

「5本指」で考えるAI産業の今 AIベンチャー・PKSHA代表が解説 待ち受けるは“AIアプリ開発競争”か

» 2024年09月09日 15時54分 公開
[松浦立樹ITmedia]

 「現在のAI産業の構造は、5本指で例えられる」──AIベンチャー・PKSHA Technology(東京都文京区)の上野山勝也代表は9月5日、同社の事業説明会でそのような話をした。上野山代表は東京大学松尾研究室で博士号を取得し、2012年に同社を設立。12年間、日本でAIソフトウェアの開発に取り組んできた実感として、AI産業のグローバルの現状や、国内AI企業がそこに立ち向かうための戦い方を話した。

PKSHA Technologyの上野山勝也代表

 上野山代表は「現状のAI産業は5層の構造をとっている」とし、聴衆に手のひらを向け、5本指を使ってその構造を解説した。一番上に小指を置き「小指=ユーザー(AIサービスの利用者)」、その後は上から順に「薬指=AIアプリケーション」「中指=基盤モデル」「人差し指=半導体」「親指=電力」と、それぞれを例えた。

上野山代表が5本指で例えた現在のAI産業の構造

 上野山代表は「現状のAI産業のどこに利益が落ちているかというと、ほぼ半導体(人差し指)になる」と説明し、このレイヤーにいるプレイヤーの例として、米半導体大手のNVIDIAを挙げた。同社は8月、2024年第2四半期(5月〜7月)の決算を発表したが、売上高は前年同期比122%増の300億4000万ドルとなり、過去最高を更新していた。

(関連記事:NVIDIA、AI需要で売上高過去最高を更新 「Blackwellのサンプルは出荷済み」とファンCEO

 また、中指に当たる基盤モデルにいるプレイヤーには「GPT-4o」を開発した米OpenAIや、「Claude 3.5 Sonnet」を作った米Anthropicなどが当たる。上野山代表はこのレイヤーにいるプレイヤーは「ビッグテックのR&D費用を引っ張り、研究開発を進めている」と説明。一方、24年時点ではほぼ全員が赤字の状態であると指摘している。

 この現状に対し、上野山代表が今後重要になっていくと見込んでいるのは、薬指の“AIアプリケーション”のレイヤーだ。このレイヤーはもっともユーザー(小指)と近い。そのため今後は、各業界・企業からさまざまな機能を持つAIアプリが提供され、それらが成長していく時代に入ると予測している。

 「24年は、中指(基盤モデル)と薬指(AIアプリ)をまだうまく統合されていない印象。今後は基盤モデルを作るビッグテックとAIアプリケーションを作るプレイヤーで競争が起こるのでは。ただ、AIアプリケーションの中でもかなりすみ分けが生じると思う」(上野山代表)

 PKSHA Technologyとしては、基盤モデルにも一部取り組みながら、コンタクトセンター向けのAIアプリに特化していくなどの方法を検討しているなど、その考えを明かした。

人とAIの縮まる距離感 「共進化」で探求を続ける

 AI産業について、このような現状を分析するPKSHA Technologyでは「人とソフトウェアのコミュニケーション」を軸に事業に取り組んでいる。上野山代表は「コンピュータはわれわれの身体・脳に近づき続けている」とし、未来のソフトウェアは人と言葉で話し、対話するようになるのではないかと、その進化を予測している。

 そこで同社がキーワードとして挙げたのが「共進化」という言葉だ。共進化とは、生物用語で「2種類の生物が対立関係にある場合、互いが相手に対して強くなるような進化を交互に繰り返すこと」を指す。データを与えることでAIが進化する一方、人間もAIを使っていくことで自身の能力が拡張され進化していく。お互いに情報を投げ合う(=対話)することで共進化する関係であると、上野山代表は説明する。

 「昔は人とソフトウェアの距離が遠かったが、今の時代はすごく身近に感じられるところまで近づいた。ソフトウェアが生活の中でいろいろなことができるようになり、技術者の世界にとどまらなくなった。そのため、権利関係など議論しなければならないトピックが増えている。われわれは、人にとってポジティブなソフトウェアの形とは何かを探求し続けたい」(上野山代表)

 続けて、ソフトウェアの探求していくためにも共進化が重要であると、上野山代表は強調。日々複雑化していく世の中に対して、1人で研究を続けることの難しさを指摘する。そのため研究開発についても、PKSHA Technologyだけでなく、他企業や機関と連携して取り組み、開発者同士も共進化していくことが重要であると話した。

PKSHA Technologyは、日本マイクロソフトの技術支援のもと「RetNet」技術を活用した大規模言語モデル(LLM)の開発を進めている

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.