従来、生成AIはコスト削減や業務の効率化を目的としたツールとして捉えられ、誰でも安価にクリエイティブなコンテンツを作成できるという面が強調される一方、「クリエイターの仕事を奪う」という否定的な側面が注目されがちでした。
しかし、博報堂DYグループの総合制作事業会社である博報堂プロダクツは、この技術を単なる効率化手段とするのではなく、生活者と企業との間に新たな接点を生み出すコミュニケーションのツールとして捉えています。同社の執行役員である石崎優(崎はたつさき)さんが実際のマーケティング現場における生成AI活用の例を紹介します。
博報堂DYグループでは、画像生成AIや大規模言語モデルが注目を集め始めた時期から、体験領域へ生成AIの実装に取り組んできました。分かりやすい例としては、ユーザーが自分の考えや個人的嗜好を入力することで、それを言語化・視覚化したようなアウトプットを返してくれる、ジェネレーターコンテンツの実装です。
例えば、博報堂プロダクツでは、生成AIの可能性を体感できるデモコンテンツとして「理想の家電ジェネレーター」を用意しています。
「あなただけの◯◯を出力します」といったコンテンツ自体は以前から存在していましたが、これまではアウトプットは一定のパターンを事前登録していたり、文字部分だけを埋め込んだ画像を生成したりするなど、入力・出力ともに限定的なパーソナライズ体験となっていました。
一方で生成AIを使うと、ユーザーが自然言語で自由な入力が可能に。アウトプットに関しては画像や文字はもちろん、音声や動画などまで含めマルチモーダルな幅広い表現ができるようになりました。
博報堂DYグループである大広でも、Laboro.AIと共同開発した生成AIプラットフォーム「DDDAI」(Deep Dialog DesignAI)をリリースしています。DDDAIは、いくつかのエンジンからなるプラットフォームで、博報堂DYグループでは顧客のマーケティング支援のために利用を始めています。これを活用して、ビジネスウェアブランドを展開するFABRIC TOKYO(東京都渋谷区)において接客チャットbotを実装しました。
黎明期に比べ、ChatGPTやDALL-Eなど、APIが公開されるAIモデルも増え、生成AIを組み入れたコンテンツそのものは簡単に構築できる環境になりました。しかし、ユーザーの体験価値を高める実装にはいくつかのポイントがあり、それらが考慮されなければ企業のマーケティング活動として意義のあるものにはなりません。
博報堂プロダクツでは、下記の3つを配慮すべきポイントとして考えています。
特に3番に関しては、従来のハッキング対策などのITセキュリティはもちろん、ユーザー側の悪意のある入力への対処や、企業としてのコミュニケーションの一貫性を担保するなど、自由な入出力が可能な生成AIだからこそコントロールが難しいものになります。
従来は情報開示を行うことはユーザーにとって抵抗があるものであり、ユーザーから深いインサイトを抽出するにはインセンティブとしての報酬であったり、人のスキルと工数が必要なものでした。
しかし、今後台頭してくるAIネイティブ世代の価値観は「自己開示をするなら人よりもAIの方が心理的安全性が高い」「自分に最適化された体験を得るためには自分の情報を開示することにむしろ積極的になる」といった傾向が顕著になると考えています。
また、現在はスマートフォンやPCなどのデバイス上の体験に閉じられていますが、今後店頭やコンタクトセンターでの接客へのAI実装も普及していくでしょう。日常生活の中に当たり前にAIインタフェースが実装される社会になっていくことは間違いありません。
生成AI以前のパーソナライゼーションは事前に取得したユーザー情報や行動ログなどを踏まえ、ユーザーの嗜好を類推。事前にパターン登録した出力から選抜してユーザーに届けることが一般的でした。
しかし、生成AIインタフェースでは、ユーザー側が自ら求める体験・情報を得るために自己情報開示を行い、それを元に出力を生成するユーザードリブンのパーソナライゼーションが実現します。
これにより企業は、今まででは得られなかった深度の高いデータ・インサイトが得られるようになる可能性があります。一方、生成AIで実現できることが広がっていくにあたり、同時にケアしないといけないリスクも増えていきます。生成AIで得られるリターンとリスクを正しく理解した上で、情報を適切に扱うことが大切です。
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