イトーキは得られた研究結果を基に、データに基づいたオフィス改善提案サービスを開発する方針だ。新サービスでは、顧客企業のオフィスで従業員の行動データを収集・分析し、その企業に適した生産性指標の選定や、具体的な改善提案までを行うという。まずは25年後半から顧客企業での実験的なデータ取得を開始。26年中には本格的なサービス提供を目指す。
「業種ごと・業界ごとにパターンがあるはず。企業がその中から自社に適した指標を選べるようなパレットを作る」(湊社長)
顧客企業でのデータ取得に先んじて、イトーキ社内での先行調査も開始。すでにデータも得られているという。例えばオフィス内の位置情報分析では、特定のエリアで作業する社員のパフォーマンスが高いことが判明。一方で、多様な場所にバランスよく滞在している人の方がパフォーマンスが高いという傾向も見られた。
他にも、パフォーマンスが高い人同士、低い人同士が同じエリアに集まる傾向があることが分かったと大西氏。現在は、特定エリアでの作業がパフォーマンス向上につながるという相関関係を検証するため、実際に社員に特定エリアで1時間以上作業してもらい、その効果を分析中としている。
なお湊社長は、個人データの取り扱いについて、社内調査では「社員から書面で許可を得た上で、個人情報として扱わない形で実施している。参加したくない社員には無理強いしていない」と説明。提供予定のサービスについても、オフィス単位での生産性向上に焦点を当て、人事評価への活用は想定していないという。
イトーキが新サービスの開発や研究に至ったきっかけについて、湊社長は「そもそも生産性って何? というのが一番の課題」と話す。
「仮説で作ってきたオフィスは、意外に間違っていると気づいた。イトーキでは毎年本社の1フロアを改装しているが、直近では新卒や中途採用を増やしたので、先輩が隣に座ってモニターを見ながら教えられるエリアを作った。ところが、ほとんど使われなかった。実際は、先輩が後輩に教える時は『その辺の端っこ』に座って軽く教えることが多かった」(湊社長)
イトーキの八木佳子執行役員も「お客さまから『もうかっている会社がオフィスに投資しているだけでは?』と言われることがある。原因と結果の因果関係を解明することは、私たちのビジネスにとって重要」と話す。オフィス投資が本当に生産性向上につながるのか、それとも単に業績の良い会社が結果的にオフィスに投資しているだけなのか──それを明らかにするのが、研究の趣旨というわけだ。
研究に協力する松尾教授は「生成AIが業務プロセス全体を変革していく中で、人とAIの仕事のバランスも変わってくる。その中でオフィスの役割や、そこで果たすべき機能も連続的に変わってくるはず」とコメント。もし、オフィス環境と生産性の関係が明確になれば「(指標やその決め方を)世界標準にできる。シリコンバレーの企業が全部そういう仕組みでオフィスを使っていてもおかしくない」と期待を寄せた。
【訂正履歴:2025年8月13日午前11時】記事掲載当初「パレットの検討にはイトーキのデータも活用する。同社が24年2月から提供している、仕事場のデータを収集し、オフィス設計に生かすサービスで得た情報を活用。三菱UFJ銀行を含む60社のデータをAIで分析するという」と記載しておりましたが、一部に事実と異なる点があったため削除いたしました。お詫びして訂正します。
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