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日本が“AI競争”で海外に勝つには?──Sakana AIデビッド・ハーCEOの見方 「ソブリンAI」「和製LLM」はどう捉える

» 2025年10月01日 18時00分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 生成AIの躍進と同時に、日本政府や企業によるAI開発やその支援に関心が集まりやすくなっている。リソースで勝る外資ビッグテックたちにどう立ち向かうかが焦点だが、立ちはだかる壁は多い。一方、そうした状況だからこそ、巨大企業とは異なる土俵で戦い、独自の価値を追求しようとする企業も出ている。例えば米Googleの著名な元研究者2人が日本で立ち上げたSakana AIはその代表だろう。

  9月17〜18日に大阪・関西万博内で開かれた、経済産業省ら主催のスタートアップ向け展示イベント「Global Startup EXPO 2025」に登壇した同社のデビッド・ハーCEO。現地では、ITmedia AI+の単独取材に応じた。

photo イベントに登壇したデビッド・ハーCEO

 “AI競争”において、日本勢は海外とどう差別化すべきか。その考えのもと、Sakana AIは今後どんな方向性を目指すのか。同氏へのインタビューから手掛かりを探る。

「他国がやっていないニッチな分野を見つけるべき」

──早速本題からお伺いしますが、日本のAI開発について、基本的に人材も資本力も米中のビッグテックに勝てないという見方が多くあります。日本の政府や企業が諸外国と互角に戦うために必要なものは何だと考えていますか

ハーCEO:まず「ビッグテックにはかなわない」というマインドセットから変える必要があります。その上で、アメリカや中国と全く同じ土俵で戦うのではなく、日本独自の強みを出せるニッチな分野を見つけるべきです。例えばアメリカは大型の基盤モデル、中国はオープンソースで競争しており、それぞれ戦い方が異なります。

 日本も、他国がやっていないニッチな分野を見つけていくべきだと思います。他国がやっていないことを“補完的”に担うことが、成功への道筋だと考えています。

──その「日本独自の強み」とは具体的に何でしょうか

ハーCEO:あくまで私のアイデアですが、日本(の製品やサービス)には信頼性や品質の高さといった、世界に評価される優秀なソフトパワーがあります。こうした日本独自の価値観や品質へのこだわりをAIテクノロジーに埋め込み、他国にはない特徴的な製品や価値を創出すべきだと思います。

 単にChatGPTのコピーを作るのではなく、日本の価値観に根差したユニークなものを開発することが、グローバルな市場へのアピールにもつながると考えています。

「ガラパゴス化は避けなければ」 ソブリンAIへの見方

──昨今、日本ではデータやシステムを国内インフラ内で完結させる「ソブリンAI」に注目が集まっています。この動向をどう見ていますか

ハーCEO:ソブリンAIを巡っては「自国で自国のLLMをトレーニングすること」をイメージする人が多いですが、本質は違うと思います。真の価値は、他国への技術的な依存度を下げていくことです。

 そのためには自国でノウハウを開発することも重要ですが、AI開発はグローバルな協力と競争の中で進んでいます。日本が最も避けなければいけないのはガラパゴス化です。独自のエコシステムを構築しつつも、アメリカや中国など他国と協力し、世界全体の開発の流れに乗ることが重要です。

──しかし、日本国内では「和製LLM」や「日の丸LLM」を期待する声も小さくありません。Sakana AIはその方向性を目指さない、ということでしょうか

ハーCEO:私たちも独自のLLMを作ろうとは考えています。ただ、それをゼロから作るのではなく、巨大なオープンソース・エコシステムを活用し、既存のモデルからより良いものを生み出していきたいと考えています。

――昨今、米Googleなどが画像・動画生成に力を入れていますが、Sakana AIが同様の分野に挑戦する可能性は

ハーCEO:GoogleはYouTubeのデータを活用できるため、動画・画像分野に力を入れるのは当然の流れでしょう。一方でSakana AIは基盤モデルやAIコーディング、AIエージェントなどが今後の注力分野になります。企業ごとに特色がある、ということだと思います。

――現時点で、日本企業がAI導入を検討する際、米OpenAIやGoogleではなくSakana AIと組むメリットはどういう点にあるのでしょうか

ハーCEO:われわれは大手企業との差別化を意識しており、特にB2B、B2G(政府機関向け)の中でもトップ50から100のクライアントに注力しています。注力分野であるAIエージェントに特化することで、個別の企業や団体に最も高い価値を提供できると考えています。一般消費者や中小企業などを相手にする大手企業との違いはそこにあると思います。

──2025年も後半ですが、今後はどのような技術や領域に注目していくのでしょうか

ハーCEO:AIを使い、新しい知識やアイデア、アルゴリズムを発見する手助けをする「AIドリブンディスカバリー」を志向していきます。中国のように人口が多い国であればB2Cにも可能性があるかもしれませんが、日本のスタートアップの場合はB2BやB2Gに今後もフォーカスするのが最も合理的と考えています。

 ただ、将来的には27年以降にB2Cの分野を検討する可能性も、なくはないかもしれません。


 9月末には、GMOインターネットグループのGMO AI&ロボティクス商事(東京都渋谷区)と協力し、日本語向け大規模言語モデルの開発も発表したSakana AI。外資の日本進出も急速に進むが、その中でどう存在感を示していくか、今後の動向も注目される。

photo 取材に応じたデビッド・ハーCEO

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