私は「神経質」でなく「繊細」――ラベルを張り替える【後編】「気弱な自分」をプラスに変える(2/2 ページ)

» 2008年10月31日 06時25分 公開
[平本あきお(構成:房野麻子),ITmedia]
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「“できる”を発揮する私」欄へ

 今日もたくさん仕事があるけれど、これとあれを一緒にやったら効率よくできて、時間も節約できるよね

  ↓

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 (そして)そうすることで、今日は子供たちが寝る前に帰って、少しでも会話できるといいよね

  ↓

「“ゆとり”のある私」欄へ

 (そして)今日はできれば、入浴剤を入れた湯船にゆっくりつかろう。身体を休める時間も大事だよね


 このような感じで、毎日一言、二言でもいいので、それぞれから言葉をもらうようにします。

大事なのは、交換できない自分を使いこなすこと

 私のメンタルコーチングは、アドラー心理学に基づき、対立するものは一切ないという前提でやります。なぜそうした方がいいかというと、対立するものがあるといって、戦ったところで、自分の中にあるものなので消し去ることはできないからです。

 消し去ることができないものと戦い続けると、不毛な戦いになります。悪いもの、ダメなもの、消し去りたいものとする代わりに、それをどうしたら味方にできるかという発想することで、今まで使われなかった才能や資源がどんどん使われるようになります。

 アルフレッド・アドラーは言っています。「大事なのは、何を持って生まれきたかではなく、持っているものをどう使いこなすかだ」

 パソコンは壊れたら取り換えることができますが、自分を取り換えることはできません。取り換えられるものは悪いところを探して、それを改善したり、よいものを購入したりすればいいですが、残念ながら私たち人間は、自分を取り換えることができません。だとしたら、ダメなところを探すのではなくて、どうしたら今持っているものを使いこなせるかと考えるべきで、そんなふうに発想してほしいのです。

「神経質」は「繊細」に――引き出しのラベルを張りかえる

 例えて言うなら、私たちは引き出しを持っています。

 色々な引き出しがあって、「自分らしい」というラベルシールが張ってある引き出しは、よく開け閉めして使うかもしれません。でも、その隣の「ダメ出し」や「冷めている」と張ってある引き出しは、なるべく使いたくないので、使わないでおこうとします。ところが、結果的にはそれが出てきてしまって、ダメ出ししたり冷めた態度を取ったりします。使わないように、出さないようにするのに、結局出てきてしまって、自分が余計に落ち込んでしまうのです。

 そこで、ダメ出しの代わりに「地に足を着かせる」「現実化させる」など、別の名前を張ります。「冷めている」の代わりに「全体が見える」と張り付けます。自分にとって受け入れやすいシールを張ることで、すべての引き出し、つまり自分の持っている能力や才能が活かされてくるのです。

 例えば、「神経質」というラベルが張ってあったら使わないけれど、「繊細」「感性が鋭い」というシールだったら使いたくなります。「怒りっぽい」というラベルだったら、そこはなるべく使わないようにするけれど、「感情に敏感」とか「行動を起こしやすい」というラベルをはれば使いやすいですね。タイトルを付け直すのは、自分の中で使わないようにしていた引き出しを、使えるようにラベルをはり替えているだけなのです。

 今回は、石井選手のケースを通してお話してきましたが、皆さんの自分自身の中で矛盾する自分がいたら、まず、ステップ1で、その矛盾に気づきましょう。ステップ2で、区切ってそれぞれの立場を書き出します。ステップ3で、「だけど」でつないで徹底的に気持ちを書き出して、十分出尽くしたと思ったら、ステップ4で、もしそれぞれが自分の味方だったとしたら、どんな風に言ってくれるかを書き出します。その際は「そして」でつなぎます。大事なのは納得するまで書くこと。自分の中で矛盾しなくなったら、これは止めてかまいません。最終的には1人に統合され、3人はなくなります。

3分たつと“石井ちゃんタイム”――どの自分でも勝てる

 北京オリンピックで石井選手の試合を見ていた方もいらっしゃると思いますが、「なりふり構わない自分」が出ているときは、バッファローのように突進して前に進んでいるし、「したたかな自分」が出ているときは、ちょっとした相手の反則でも、すかさずポイントを積み重ね、最後まで守り切って、相手の良さを出させない彼が出てきています。

 柔道の国際試合は5分間の試合です。実は多くの選手は3分くらいでガクンとスタミナが切れてくるんです。逆に石井選手の場合、3分たつと“石井ちゃんタイム”(笑)と言われ、そこからは非常に強くなります。これは、たゆまず練習を続け、体力を付けてきた「辛抱強い自分」が出てくるからなんですね。

 ということで、なりふり構わない自分で、一気に1本勝ちしてもいいし、したたかな自分が出てきて、相手の反則を誘って最後まで守り通してもいいし、辛抱強い自分が3分後から驚異のスタミナでどんどん押して行ってもいい。結局、どの自分が出ても勝てるのです。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本あきお(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は、『すぐやる! すぐやめる!技術 ― 「先延ばし」と「プチ挫折」を100%撃退するメンタルトレーニング』。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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