一方で、社長はこれ以上ないほど大変なポジションです。
会社で起こったことの全責任を社長は負います。社員が不祥事を起こしたときも、お客様に被害を与えてしまったときも、謝罪すべきは社長です。ナンバー2ではありません。
ナンバー2まではビジネスマンの視点ですが、社長になると自分という個人が公に属している法人そのものになったような感覚が生まれます。
もちろん、数字に関するすべての責任も負います。ここでは、言い訳は一切通用しません。社長のエグゼキューションの結果が、そのまま数字に表れているからです。「誰が悪い」という言い訳ができないのが、社長という立場です。
また、お客様も社会も、社長を見ています。ナンバー2のことは、ほとんど誰も知らない場合も多いです。そして、社員も全員、社長の言動に注目しています。これは世界中どこに行っても同じです。ですから、人と話していても言葉に細心の注意を払うようになります。望むと望まざるとにかかわらず、社長の言葉は会社の意思と捉えられます。
このように苦しいことも含めて、できればぜひ一度、社長というポジションを皆さんも経験してみてください。万人向けではないかもしれませんが、同じ人生なら、苦しみも楽しみも大きいほうが面白いのではないかと思います。
一度やるとクセになるかもしれませんが、社長の座にしがみついてはいけません。強いポジションに同じ人間がずっといると、会社の空気が詰まってきます。長くても5年くらいだと思います。
誰もが「自分がいないとこの会社はダメだ」と思いたがりますが、組織というのは誰か1人が辞めたくらいでつぶれるほど、ヤワなものではありません。極端な例ではありますが、あのスティーブ・ジョブズが辞めても、アップルはすぐにはつぶれていません。寂しいですが、社長の自分がいなくなっても組織は動いていきます。
そのためにも、在任中に後任を育てておくことが大切です。派閥や創業一家の血縁関係などではなく、育てた後任が下の人間から選ばれて社長になるのが理想です。
(選ばれ続けるリーダーの条件=終わり)
山元賢治(やまもと・けんじ)
1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。2002年、日本オラクルへ復帰。2004年にスティーブ・ジョブズに指名され、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任し、現在、(株)コミュニカ代表取締役。(株)Plan・Do・See、(株)エスキュービズム、(株)F.A.N、(株)マジックハット、グローバル・ブレイン(株)の顧問を務める。私塾「山元塾」を開講。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.