民泊関係者や利用者だけではなく、既存の旅館業関係者も民泊に注目している。「旅館業法の許可をもらうために、こちらは手間もコストもかけている。違法状態でやられてしまっては不公平だ」という思いを抱いている関係者も少なくない。
合法を貫くことで、そうした旅館業関係者との関係が悪化せず、協力できる――というメリットもあった。
とまれるは、東京都蒲田の一部民泊で、フロント業務を近隣旅館・ホテルに委託している。民泊では部屋の鍵の受け渡しを事業者が行う必要があるが(鍵の受け渡しを代行する企業もある)、初対面の相手から受け取ることに心理的抵抗を感じる利用者もいる。そこで、ホテルのフロントに担当してもらい、安心感が生まれるという効果を狙う。
さらに三口さんはホテル・旅館業者に、民泊運営の提案をしているのだという。
「現在、ホテルの部屋は埋まっているので、さらに売り上げを上げたいと考えても、これ以上伸ばしようがない。新しいホテルを増やすにはちょっとリスクが大きく、また許可が下りないこともある」
そこで、近くのマンションを数室借りて“別館”として運用する。中長期滞在客を別館で対応するようにすることで、今よりも多くの短期客を“本館”で対応できるようになる。
長いスパンで見ると、利用客が減ってしまった場合に大きな設備投資はリスクになる。民泊的な運営であれば、別館の借り上げをやめればいいので、新ホテルを造るよりも弾力的に運用できる。
「掃除やベッドメークといったノウハウが、ホテル・旅館運営者に蓄積されているので、ホスピタリティの高いサービスを提供できるはず。以前はにべもなく断られていたが、最近は『どこかがやってみたら、やってみたい』といった反応に変わってきている」
三口さんは、民泊のルール作りに積極的に参加し、行政からも意見を聞かれる立場にある。そういった背景もあって、さまざまな相談が寄せられるのだという。「個人で民泊を運営したい」「地方自治体で余っている部屋を活用したい」「フェスをやるがホテルが足りない」「旅行者にホテルをアサインできない」……悩みや問題を聞きつつ、協力や提携ができる部分があれば力を貸している。
「民泊はネガティブに捉えられがち。しかし閉塞的になるのではなく、新しい活用法や提案をしていき、ポジティブに盛り上げていきたい」
海外では、民泊が“1つの旅行スタイル”として確立されてきているという。ネガティブなイメージから民泊が盛り上がらなければ、「日本は民泊がないのか、じゃあ他の国に旅行に行こう」という選択をされてしまうことだってあり得る。
「今の状況はLCCが台頭し始めたころと似ている」と三口さんは言う。格安LCCが出てくれば、他の航空会社が打撃を受けるのではと思われていたが、結果として「これまで飛行機で旅行をしていなかった層」を取り入れ、国内の旅行者人数が増えた。安さを求める層がLCCに、サービスや安心を求める層は既存の航空会社に――と、現状は利用の“乗り分け”がなされている。
三口さんは宿泊施設も同じだと考えている。割安感や地域での生活体験や人との交流などを求める層では民泊に、ホスピタリティでは既存のホテルにと“泊まり分け”する。国外の旅行者も、国内のビジネスパーソンも同じだ。
「民泊に反対するのではなくて、取り入れていく――そんな意識を業界全体で持っていかなければ、2030年の目標である訪日観光客6000万人は達成できない」
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