ドワンゴが運営するゲーム情報サイト「電ファミニコゲーマー」が1月31日、広報や編集者、宣伝、メディアなどの仕事に就いている人、就きたいと考えている人を対象としたキャリア相談イベント「電ファミキャリア相談会」を開催した。
「出来事・才能・作品を『拡(ひろ)げる仕事』の面白さ」と題したトークイベントでは、『週刊少年ジャンプ』の元編集長である鳥嶋和彦白泉社会長、マーケティングプランナーの小沼竜太リュウズオフィス社長、「電ファミニコゲーマー」の平信一編集長が鼎談し、「拡げる仕事」の醍醐味について語ったことは前編記事でレポートした(前編記事を参照)。後編では才能を開花させるための方法論に加えて読者への伝え方、そして会場との質疑応答の模様を、「余すところなく」お届けする。聞き手は、モデレーターを務めたニッポン放送の吉田尚記アナウンサー。
――前編記事で、鳥嶋さんには才能を見つけ作品を作るところまでを伺いましたが、作品を作った後、どのタイミングで読者に「渡す」のか。今回はここをお話しいただけますか?
鳥嶋: 『Dr.スランプ』は出せば反響があったので全然苦労しなかったですね。なぜ苦労しなかったかというと、『ジャンプ』の他の漫画は絵が下手だったので、最初から目立つのは分かっていたからです。
――確かに鳥山明さん出現以前と以後で漫画の絵の質は大きく変わったといえますね。
鳥嶋: 最初は苦労しなかったのですが、困ったことに『Dr.スランプ』を始めて半年で、鳥山さんが「やめたい」と言い出しました。一話読み切りなので、例えば僕が「ここが良くない」といって修正を指示すると、一話をほぼ丸々直さなきゃいけないんです。これがイヤだと。でも最初から人気がすごくあったからやめられませんでした。編集長に相談したら「『Dr.スランプ』よりも面白い作品を作れたらやめてもいい」といわれました(笑)。
仕方がないので、本来は7日間掛けて描く週刊誌連載を5日間で描いてもらうことにして2日間を貯金していき、その貯金した時間を利用して読み切りを描いてもらいました。これで『Dr.スランプ』よりも面白い作品を描けるかどうかテストをしたわけです。それで1年間テストをしましたが全く見通しは立ちませんでした。
鳥山さんは毎日電話で悲鳴をあげていました。僕は名古屋まで足を運んで打ち合わせをしましたが、残念ながら良い作品は思い浮かびませんでした。新幹線の時間が近づいて鳥山さんの家を出ようとしたその時。「うちの旦那は変わっている」という奥さんの一言で救われたんですよ。彼女はもともと白泉社で連載を持っていた漫画家でした。
どういうことかというと、下絵込みのコンテが上がっている場合、あとはペン入れをするだけなので、「普通(の漫画家)」は音楽を聞きながら仕事をするのです。「なのにうちの旦那はビデオで映画を見ながら仕事をする」と言うのです。
「でも原稿を描きながらだから、映画の画面は見れないじゃん」と言ったら、いや流れてくるせりふを聞いただけで自分の見たいシーンが分かりますと。せりふを聞くと見たいシーンで顔を上げるというのです。
「何の映画を見ているの?」と聞いたら、ジャッキー・チェンのカンフー映画を見ているということでした。「せりふでシーンが分かるということは何回くらい見ているの?」と聞いたら50回以上見ていると(笑)。
「そんなに好きならカンフーの漫画を一度、描いてみてよ」と頼んだのが『ドラゴンボール』のもとになった『ドラゴンボーイ』でした。今まで読み切りが全然当たらなかったのですが、この『ドラゴンボーイ』には大変な反響がありました。これで『Dr.スランプ』をやめられる見通しが立ったのです。
――それで『ドラゴンボール』は一話読み切りではなく、ストーリー漫画になったのですね。
鳥嶋: そう。鳥山さんから「描いたところで終われるからストーリー漫画は楽ですね鳥嶋さん」と言われました(笑)。『ドラゴンボール』のときも読者への渡し方は考えませんでしたね。もう読み切りでキャラクターの人気があることは見えていましたから。ところがその後、人気がじりじり落ちていって……大変な苦労をすることになるとは夢にも思いませんでした(笑)。
いわゆる西遊記をもとにしたロードムービー風のストーリーを作っていたのですが、人気が落ちていきました。このままいくと10位以下になってしまう。終わりそうだ、と。
鳥山さんとは毎日電話で話していて、結果「主人公である悟空のキャラクターがはっきりしない」という結論になりました。1週間ほどディスカッションを重ねて、悟空は「強くなりたい」というキャラクターじゃないか、と考えて、これが読者に伝わっていないという仮説ができました。それで悟空のキャラクターを立たせるために、亀仙人と悟空以外のキャラクターは一度、捨てることにしました。
悟空に対比させるためのキャラクターとしてクリリンを作り、この3人で修業編をやって、「天下一武道会」で成果を見せる。努力しているシーンは見せませんでした。強くなったシーンを見せれば努力したことは分かるからです。天下一武道会をやったら狙い通り人気が出ました。
読者にどう作品を渡すのか。僕ら編集者は、読者の反応がいつも一番怖いわけです。なぜならごまかしが効かないから。『少年ジャンプ』の読者は子どもなので作家名では読まないんですよ。面白いかどうかだけなんですね。
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