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「夫婦観」をアップデートせよ――添い遂げる美徳より、今ベストを尽くすこと人生100年時代の「結婚」とは(2/2 ページ)

» 2019年05月21日 05時15分 公開
[中森りほITmedia]
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夫婦間の衝突=関係性をアップデートする機会

――「結婚しなくても幸せになれる時代」とも言われていますが、実感としてはいかがですか?

森山: 「夫婦にならなくてもいいよね」って空気は、必然として出てきていますよね。人生の選択肢が増えるのはいいことです。だけど、「結婚なんて意味がない」みたいに、結婚したい二人まで解こうとする論調は、変に勘違いしてしまう人を増やしてしまうだけ。今の時代に「パートナー」ってなんなのか、考えたうえで結婚するかしないか、決断したほうがいいと思いますね。

山川: 私はそれって自由の弊害だと思っていて。フリーランスにもお一人さまにも適性がある。それをすっ飛ばして、「やっぱり自由がいいよね」っていう議論が先に起こってしまっているのが問題。数ある選択肢の中から、自分で考えて選んで、人生をデザインして、責任を持って生きていくことが大事。それを考えずに社会の論調に流されちゃうのは大きな損失です。結婚することの良さもありますからね。

――二人が感じる結婚の良さってどういうところにあるんでしょうか?

山川 自分を拡張していけるところかな。人間にとって「変化し続ける」って大事なことだと思うんですよ。結婚ってある意味、自分が理解できない生物とともに生きると決めること。当然いろんな感情や不都合が生じるわけで、それに対処していくためには自分を拡張していかなければいけない。子どもが生まれれば、また新しい夫婦関係を構築していく必要もあるわけで。

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山川: 樹木希林さんって、どんなに大変な旦那でも絶対離婚しないって決めていたと言われますが、私もそうで。森ちゃんは優しいし、頭良いし、本質的に変化することを選び続けられる、向上していける人間だから、たとえぶつかっても、それは私たちにとって必要な、自分自身の拡張や関係性のアップデートのタイミングなんだって思えるんです。

「相手から学ぼうとすること」が大事

――夫婦間の衝突は、機会だと。

山川: うまく向き合えている自信はないですけどね。重要なのは、向き合うことを決めて、関係性を良くしたいと思えることだけだと思います。

森山 結婚関係においては、相手を尊敬することが大事だと言われますが、言葉を変えると「相手から学ぼうとすること」が大事だと思うんです。僕にとって結婚のすばらしさは、自分が成長でき、相手と人生で深いつながりができること。でもそれも、結婚をどう定義するかによって変わるものだから、相手とは常に認識を合わせる必要がある。今はそれができているから満たされているのかな。

――「衝突」でいうと、結婚はコスパが悪い、合理的じゃないという論調もあります。どう思いますか?

山川 むしろ、結婚ってコスパいいと思うんだけどな。私はこの命をかけるなら世の中にとって価値があることをしたいと思って今の仕事をしているんですが、世の中で一番価値があることって、死ぬときに「この人生でよかった」と思えること。そのためには「自分の人生を生きた」「大切な人とつながれた」という二つの実感が自分には必要で。夫婦から始まる家族という存在は、そこに大きく貢献するものの一つなんじゃないかと。自分の意思で、それまで関係なかった赤の他人と、新しい家族をつくるというのは、私的な人生のゴールから考えると、確かに非効率ではあるけれど、とても合理的というか。

森山: コスパって、何に対するコスパなのか? っていうのがありますよね。コストは時間とお金だと思うんですけど、パフォーマンスのほうを実はみなさん、あんまり意識していないんじゃないかって。お一人さまだとお金を自分だけにかけられる。好きなときに好きなビールを飲む、だとか。だけどそれは、深く話し合えるパートナーに出会うような、本当に意味のあるパフォーマンスは得られないかもしれない。「コスパ」を口にする人って、僕からすると、「今ある自分のライフスタイルが脅かされるんじゃないか」っていう考えなのじゃないかと思い、自分勝手に感じられます。  

 きっと、あまり人とのつながりがないから不安になるんです。だとすれば、つながりをつくる、パートナーはいなくても、家族としっかりつながることを、あらためて考えたほうがいいと思うんですよ。今は、夫婦観の転換期、言ってみれば、混沌期。いろんな夫婦の在り方を「知る」という段階で止まっているからつらく感じる人が多いのかもしれません。知った上で、自分で考え、行動してみて、「こういう生き方いいな」って見つけていくのが、拡張。だから、自分で考えて行動する必要があると思うんですよね。

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添い遂げる美徳より、今一緒にいるためにベストを尽くすこと

――成長していく中でお互い進みたい方向が違うために別れを選ぶこともあると思います。

森山: 人生100年時代、離婚は増えるでしょうね。100歳まで一人の人と寄り添い続けるのはなかなかできないこと、より自由になっていくと思います。ずっと一緒にいることがいいのかっていう話もありますし、別れを「離婚」と呼ばなくなるかもしれない。結婚とは50年間の契約で、それを更新するかどうかは、また50年後に話し合いましょう、だとか。

山川: 「添い遂げる美徳」みたいなのがありますが、未来永劫、一緒にいることが重要なのではなく、今一緒にいたいと思えることが大事だと思っていて。それは、「今だけ」一緒にいたい、という感じでも、かと言って、割り切る感じでもない。だけど、少なくともお互いにベストを尽くせないのに添い遂げるというのは違う。一緒にいるかぎりはベストを尽くすというのは、会社で働くにしても夫婦でも一緒だと思います。

――夫婦観が変わる中で、これから個人としてできることは?

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山川: これからの時代って、幸せの定義が決まっていない未体験ゾーンに入るじゃないですか。正解がない新しい時代。だけど、死ぬときにどうあることが幸せかって、みんな考えたら自分なりの答えはあると思うんですよね。自分なりの答えに向かって生きていくことがすごく大事で。そういうことを人がそれぞれ考えることがすごく大事だと思います。

森山: 今必要なことって、2つあると思っていて。1つは古典から学んだほうがいいということ。夫婦観にしても、今は近代の情報ばかり入ってくるけど、時代は繰り返すし、人ってそんなに変わらない。昔から人間として大事にしてきたことを知ったほうがいい。もう1つは、夫婦に他人の目を入れること。家族同士でホームパーティーをしたり、こうやってインタビューしてもらったり、カウンセリングしてもらったり。自分たちを客観的に見ることができれば、また拡張につながる。結婚式や節目のお祝いごともある意味、そういう機会なんですよね。

山川 確かに、第三者に話を聞いてもらうことは大切。夫婦って、お互いの中にある夫の印象、妻の印象に苦しんでいると思うから。最近冷たくなった、愛してくれなくなったとか。でも、他の人と話せば、そうじゃない現実が言語化される。

森山: 夫婦の世界って今すごく閉じていますが、そこが問題ですよね。閉じられた組織ってやばいじゃないですか。人を家に呼んで、夫婦をもっとオープンにしたほうがいいと思います。

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(取材・文:中森りほ、岡徳之<Livit>/撮影:中森りほ)

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