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サンシャイン水族館をプロデュースした中村元が語る「弱点を武器に変える2つの方法」ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(2/6 ページ)

» 2019年06月27日 08時00分 公開
[大宮冬洋ITmedia]
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制約を利用して新しい武器を生み出す

――確かに植物がたくさんあって気分のいい空間ですね。ペンギンが頭上の水槽で生き生きと泳いでいるのを間近で見られるのも楽しいです。

 弱点を武器にするための2つ目の方法を駆使した結果です。弱点そのものではなく、制約という「進化圧(淘汰圧)」を利用して、新しい武器を生み出します。シカなどとの競争に負けて下草が食べられなくなったキリンのうち、首が長いものだけが高い樹木の葉っぱを食べて生き残ったように、どうしようもないからこそアイデアが生まれることがあるのです。

 これもサンシャイン水族館で説明しましょう。さきほど申し上げたようにサンシャイン水族館は屋上にあり、屋根を作ってはいけないという制約があります。でも、テントは取り払いたい。そこで考えたのが頭上に水槽を作ること。下を通れば雨に濡れずに済みますし、アシカやペンギン、ペリカンが泳ぐ姿を見ることもできます。

 ペンギンなどとの距離の近さも、実は屋上ならではの弱点を逆手に取った結果です。サンシャイン水族館はビルの屋上にあり、厳しい重量制限があります。水の量が限られてしまうので、例えば頭上のペンギン水槽は浅いところだと水深が20センチしかありません。だから、ペンギンのお腹の羽毛まではっきり見えるほど近いのです。水槽の上には空(そら)しかないので浅さは感じないでしょう。

phot サンシャイン水族館では、ペンギンが頭上の水槽で生き生きと泳いでいるのを間近で見られる

――竹島水族館の話に戻りますが、蒲郡という地方都市の海辺にある古くて小さな貧乏水族館という弱点は武器にならないのでしょうか。

 1つだけあるとしたら「貧乏アピール」ですね。お金がないことをキャラとして作っていくのです。実際、竹島水族館のことを私が愛情を込めて「日本一ショボい水族館」と評したところ、小林くんは自ら「タケスイではなくショボスイ」などと言っていますから(笑)。

phot 中村さんが開催している「超水族館ナイト」というトークイベントにて。「日本一ショボい水族館から来てくれた、小林龍二君です」(中村元さん提供)

 ただし、貧乏なだけではダメです。他に何か魅力がなければいけません。例えば、私がボランティアでプロデュースした北の大地の水族館(北海道北見市)。竹島水族館と同じぐらい低予算ながら、ここには極寒という武器がありました。水族館の外に穴を掘って、壁にアクリルパネルを入れただけの水槽を作り、限られた予算を集中的に使って起流ポンプを導入。世界初の急流の川水槽であり、気温が氷点下になる頃には流れが止まって自然に氷が張り始めます。凍った川の水中も見せるのは世界で唯一の展示です。

 このような季節ものの話題は東京のメディアも面白く取り上げます。結果は大当たり。リニューアルオープン後の1年間で、旧水族館の15倍という集客を達成しました。

phot 北海道北見市にある「北の大地の水族館」。低予算で世界初を実現させた「滝壺を見上げる水槽」。大量の水が落ちてくる景観をつくるために、ドイツ製の特殊なポンプを日本で初めて使った。そのポンプメーカーの社長が見に来て「こんな使い方は思いつかなかった!」と絶賛したという(以下、中村元さん提供)
phot こちらも「滝壺を見上げる水槽」。滝壺に渦巻く白い泡の下に、北海道の美しい渓流魚オショロコマ(イワナの仲間)が輝きながら集まる。躍動感あふれた水塊
phot 以下は「北の大地の四季」を見せる水槽。少ない予算という弱点を進化への圧として、アクリル窓の屋外に川の流れを作り、植物を植えて「北の大地の四季」を見せる水槽とした。春から秋は清涼感あふれる水塊で人気
phot 北の大地の四季水槽は、酷寒の1カ月ほど、分厚い氷に覆われる。寒すぎるという巨大な弱点を武器にした世界初の展示。氷に穴を開けて潜る潜水掃除も人気で、毎年必ずたくさんのメディアが取材に来て情報発信される
phot イトウ水槽の写真。イトウは他の水族館に比べて大きく美しく唯一自慢できる魚だったが、観覧者に興味を持ってもらえなかった。そこで中村は、イトウの生息する湖を見せようと、幻想的な湖の水槽をつくった。水中に沈める擬木をつくる予算がなかったので、地元の材木業者から本物の木の根を寄付してもらった

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