――確かに植物がたくさんあって気分のいい空間ですね。ペンギンが頭上の水槽で生き生きと泳いでいるのを間近で見られるのも楽しいです。
弱点を武器にするための2つ目の方法を駆使した結果です。弱点そのものではなく、制約という「進化圧(淘汰圧)」を利用して、新しい武器を生み出します。シカなどとの競争に負けて下草が食べられなくなったキリンのうち、首が長いものだけが高い樹木の葉っぱを食べて生き残ったように、どうしようもないからこそアイデアが生まれることがあるのです。
これもサンシャイン水族館で説明しましょう。さきほど申し上げたようにサンシャイン水族館は屋上にあり、屋根を作ってはいけないという制約があります。でも、テントは取り払いたい。そこで考えたのが頭上に水槽を作ること。下を通れば雨に濡れずに済みますし、アシカやペンギン、ペリカンが泳ぐ姿を見ることもできます。
ペンギンなどとの距離の近さも、実は屋上ならではの弱点を逆手に取った結果です。サンシャイン水族館はビルの屋上にあり、厳しい重量制限があります。水の量が限られてしまうので、例えば頭上のペンギン水槽は浅いところだと水深が20センチしかありません。だから、ペンギンのお腹の羽毛まではっきり見えるほど近いのです。水槽の上には空(そら)しかないので浅さは感じないでしょう。
――竹島水族館の話に戻りますが、蒲郡という地方都市の海辺にある古くて小さな貧乏水族館という弱点は武器にならないのでしょうか。
1つだけあるとしたら「貧乏アピール」ですね。お金がないことをキャラとして作っていくのです。実際、竹島水族館のことを私が愛情を込めて「日本一ショボい水族館」と評したところ、小林くんは自ら「タケスイではなくショボスイ」などと言っていますから(笑)。
ただし、貧乏なだけではダメです。他に何か魅力がなければいけません。例えば、私がボランティアでプロデュースした北の大地の水族館(北海道北見市)。竹島水族館と同じぐらい低予算ながら、ここには極寒という武器がありました。水族館の外に穴を掘って、壁にアクリルパネルを入れただけの水槽を作り、限られた予算を集中的に使って起流ポンプを導入。世界初の急流の川水槽であり、気温が氷点下になる頃には流れが止まって自然に氷が張り始めます。凍った川の水中も見せるのは世界で唯一の展示です。
このような季節ものの話題は東京のメディアも面白く取り上げます。結果は大当たり。リニューアルオープン後の1年間で、旧水族館の15倍という集客を達成しました。
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