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映画製作現場で“残業”を160時間削減 「監督秘書」の仕事術とは有名スクリプターに聞く(3/3 ページ)

» 2019年07月08日 08時15分 公開
[後藤治ITmedia]
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ブラックな仕事がiPad Proで激変

 撮影期間中は朝から現場で監督に寄り添い、その日の撮影が終わっても、編集部に送るための指示書を作成する作業や、翌日の撮影に向けた予習が残っている。以前はほとんど眠る時間がないということも珍しくなかった。しかし、現在は台本や撮影リスト、絵コンテ、衣裳香盤など、必要なデータを全てペーパーレス化することで、1日2時間から3時間かかっていた作業を30分程度に圧縮したという。

 「昔は台本を2冊用意して、現場で取ったメモを後から編集部用のきれいな台本に書き移したり、クリップデータリスト(撮影した順番のリスト)を整理したりしていたのですが、今ではiPad Proとアプリ(GEMBA note)で全て済ませています。これなら撮影後にやっていた作業のほとんどを現場で済ますことができますし、そのまま編集部にデータを送れます。持ち歩く荷物もかなり減りました。何が良かったかって、眠る時間が増えたのがうれしい(笑)」

 スクリプターにとって何よりも優先すべきは撮影だ。ここでのミスは取り返しがつかない。その撮影できちんとパフォーマンスを発揮するためには、睡眠時間を確保する必要がある。どうしても時間が足りないときは、「後から穴埋めできることであれば、もうごめんなさいって謝って、諦めて寝ちゃいましたね……」というが、それでも限界ギリギリの日々が続く。そんな状況を変えたのがiPad Proだったという。

現在、仕事に必要なデータは全てiPad Proの中にある。もともと佐藤信介監督が持っていたiPad Proを試しに使ってみたのがペーパーレス化のきっかけだったという。写真は映画「BLEACH」の絵コンテ
写真は映画「パンク侍、斬られて候」の台本。(c)エイベックス通信放送

 「初めは現場でいろいろ言われました。『(iPad Proを)落として壊れたらどうするの?』とか。でもデータはクラウド上にあって他のデバイスでも見られますし、紙の台本よりはよほど安心ですよね。それこそ『台本燃えちゃったらどうするんですか?』と(笑)。アナログ時代と同じ感覚で、しかも短時間で仕事ができるので、生産性という意味でもすごく効果があると思います」

 田口さんは「1作品につき160時間の作業時間を短縮した成功事例」として、実はアップルの公式Webサイトでも紹介されている(ピクチャーエレメントのテクニカルプロデューサーである大屋哲男さんや佐藤信介監督とともに動画に出演している)。

仕事上の苦労は、初号試写(最初のお披露目会)で忘れると話す田口さん

 現場でどれだけ苦労をしても、出来上がった作品が素晴らしければ「嫌なことや辛かった記憶は、すぐに忘れちゃいますね」と田口さん。そして、たくさんの人で作り上げる映画だからこそ、スクリプターとして関わることに意義を見いだしているとも話す。

 「めったにあることではないんですが、スタッフ全員がある瞬間、完全に同じ方向を向くというか、同じイメージを“見る”ことがあるんですよ。うまく言えないのですが、『これってこうじゃない?』『あーそうそう』みたいな、まだ形になっていない世界なのに、誰に聞いても皆がそれを完璧に共有しているというか。それがすごく好きで、この仕事をしていて良かったと思う瞬間ですね。もしかしたらそれは、普通の会社で、何かのプロジェクトで共同作業をする人たちにとっても同じなのかもしれません」

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