Mazda3の最後のピース SKYACTIV-X池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2019年07月16日 07時01分 公開
[池田直渡ITmedia]

狙いは高圧縮比と希薄燃焼

 そもそもSKYACTIV-Xは「ガソリンとディーゼルの良いとこ取り」をするために、SPCCI(火花点火制御圧縮着火)というややこしい仕組みをゼロから考えて、「夢のエンジン」といわれて来たHCCI(予混合圧縮着火)の理論を実現したものだ。余談だが技術詳細は丁寧に解説し始めるとホントにキリがないので、過去記事を参照されたい。今回は技術の意味と、実際のフィールの橋渡し部分に集中して書くことにする。

 本題に戻る。燃料はガソリンながら、驚異的な16.3の圧縮比が与えられている。同門のマツダ製ディーゼルより高い圧縮比を持つ。ガソリンエンジンがディーゼルより圧縮比が高いなどということは驚天動地の出来事で、従来、標準的なディーゼルエンジンとガソリンエンジンはそれぞれ17と11程度。マツダは第6世代に独自の工夫で、ディーゼルもガソリンも14と同じにして驚かせた。今回はそれを飛び越えてガソリンユニットを16.3まで高めてきた。旧来型のエンジンの数値を念頭に置くと、いかに飛び抜けているかが分かる。

 しかしSKYACTIV-Xは、燃焼の仕組み自体が従来のガソリンエンジンと違うので、他と比べることにあまり意味はない。点火プラグは付いているし、実際使うのだが、一度それを忘れて欲しい。混合気をどんどん圧縮していくと、混合気は物理法則に従って温度が上がる。やがてその熱に耐えられなくなって燃料が燃える。基本原理はそちら側にあり、点火プラグは最後にちょっと背中を押してやる役割に過ぎない。

外観からそれと分かる貴重な識別ポイントはエンブレム

 またもや余談を挟めば、SKYACTIV-Xには、マツダが高応答エアサプライと呼ぶルーツ型のブロアーが付いている。いわゆるスーパーチャージャーと一緒くたにされたくないから、マツダはこれに独自の名前を付けている。

 さてこれは何か? 「燃料を混ぜた空気を圧縮して温度が上がった結果、燃料に着火させるのがHCCI」だから、原理の部分でいえば、吸気温度と吸気体積が着火のタイミングを決める。

 なのでこれをコントロールしたい。温度調整のために大気温度より高いEGR(排気再循環)を混ぜて吸気を温め、吸気量(体積)の調整にはブロアーを使う。「排気ガスなんて混ぜて燃えるのか?」と思う気持ちはわかるが、もともとが希薄燃焼で酸素は余っている。燃焼反応に必要な量の酸素が確保できるなら、それ以上は圧縮して温度を上げるための増量剤みたいなものだ。窒素だろうが二酸化炭素だろうが構わないのだ。

 つまりこのブロワーは、いわゆるスーパーチャージャーのようにパワーを出すために過給しているのではなく、自己着火させるための制御因子として使っているのだ。

 その時の実際の燃焼はどうなっているか? 高い圧縮によって、燃焼室内の混合気の温度は場所を問わず均等に上昇するわけだから、燃焼室内にある気化した燃料は燃え広がるのではなく、全てが同時に瞬間的に燃える。これは現象としては限りなくノッキング、つまり「燃焼の暴走」と同じだ。つまりSKYACTIV-Xは暴走領域の一部を技術によって手懐け、コントロール下に置くことで、従来より優れた熱効率を実現したものだ。ちなみに意図的にノッキングさせたいのだから燃料はレギュラーで良い。というか耐ノック性が高いハイオクは向かない。燃料に求める性能が変わったのだ。

 当然ピーク圧力はガソリンエンジンより高く、アクセルに反応してグイと押し出すトルキーな特性は、同じく高圧縮比のディーゼルの感覚にちょっと似ていて、それでいてガソリンエンジンのように上まで回る。いや実際ガソリンエンジンなのだが。

希薄燃焼によって、熱効率を改善しつつ応答性の高さを実現

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