今回マツダによるHCCIの改善版である、SPCCIのSKYACTIV-Xに乗って、ものすごく驚いたのはその作動領域の広さだ。SPCCIでは火花着火と圧縮着火をシームレスにつないでいるが、燃焼がどちらの領域にあるかをリアルタイムでモニターする表示が選べる。自己着火はノッキングのようなものだから、ノックセンサーと似たような圧力波センサーで検知できる。
チラチラと表示を見ながら運転すると、キックダウンするほど大きく踏み込んだ領域以外、ほとんど圧縮着火で走っている。切り替えのフィール差は全くないから、知らずに乗っていれば「何だか知らないけど良いエンジン」である。
そしておそらくこれは実用燃費を大幅に向上させるだろう。今回マツダのスタッフがごく普通に運転した実測値では19.2km/Lが出ているから、高速巡航のみに限って言えば20km/Lを超えてくるだろう。
さてATとの組み合わせはどうだったのかといえば、中負荷までの領域では、徹底してフレキシブルなエンジンのおかげもあって、粗が目立たない。ただし全負荷領域ではやはり変速時間が長く、そこは改善の余地がある。
SKYACTIV-Xをとことん味わい尽くしたいなら、負荷状態とギヤレシオを任意で選べるMTにしくはない。ただしATを選んでも大丈夫だろう。
Mazda3にとって、足りないピースは完全に埋め合わされた。シャシーの特性とエンジンの特性は相互に補完し合いながら、良さを引き立て合っている。これこそがMazda3の真打であり、状況が許すならばMTがベストMazda3であった。
値段の問題は実際のところ大きいだろうが、そこは各自の経済的状況に応じて考えていただくしかない。2019年の今、Mazda3はSKYACTIV-Xを得て、ちょっと突出した存在になっている。そこは保証できる。ただし念の為に書いておくが、技術に完成形はないので、きっとまだ進歩するだろう。基準はどんどん上がっていく、同じところにいたら取り残される。それが技術の世界だ。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。
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