ではそのHCCIというか、その改良版のSPCCIを使う理由は何かといえば、すでに述べた高圧縮によって燃料を高い効率で力に変換してやる(できる限り熱にさせない)ことに加えて、希薄燃焼を実現するためだ。従来のガソリンエンジンは14.7:1という理論空燃比に合わせてやらないと燃えなかった。そこからズレると排ガスはめちゃくちゃになるし、下手をすると燃焼室に燃え残りのスラッジが堆積して走れなくなる。
燃えないのは、混合気を薄くした場合、従来の火花着火だと燃え広がる途中で燃料が足りず、火炎の伝播(でんぱ)が続かなくなるからだ。ドミノ倒しが続かない。抜本的に燃焼の仕組みを変えて、高温による燃焼室内の同時自己着火にしてやれば、ドミノもへったくれもない。薄い燃料を安定して燃やすことができる。その結果、熱効率が改善される。それは燃費の向上とほぼ同じ意味だと考えていい。
マツダ第7世代のコンセプトを体現する1台であるMazda3。実用ハッチバックではなくて、これはクーペの仲間に思える
上で挙げた通り、理論空燃比は物理的に14.7:1に決まっているのだが、SKYACTIV-Xは平気で倍の30:1くらい、ピークでは50:1くらいまで燃料を減らしても燃やせる。20年くらい前に旧来の燃焼方式による希薄燃焼のブームが起きたが、多くのエンジンはスラッジ問題で消えて行った。
その反省と克服策として、理論的には燻(くすぶ)らないHCCIを実現しようとした世界中のメーカーが苦しんだのは、自己着火させる領域の狭さである。例えばHCCIは、エンジンが冷えきっている始動領域で着火させるのは極めて困難だ。というか実質的に無理。自己着火を成立させるための条件は結構不自由で、低回転は温度不足でダメ、高負荷域は燃料が濃過ぎて暴走がコントロールできなくなる。高回転では反応時間が足りなくなって燃えないと、非常にわがままな性格で、面倒な技術の割に自己着火燃焼してくれる領域が狭過ぎてものにならなかった。つまりメリットが少なかったのだ。
- Mazda3国内仕様試乗で判明した「ちょっと待った!」
マツダ3の国内仕様車に乗って、まさか期待を裏切られるとは露程も思っていなかった。変速ショックそのものを消そうとした結果、第7世代思想に遅れを取っている。SKYACTIV-D 1.8のアクセルも意図以上に加速を始めてしまう。それは全く人間中心ではない。この評価が変わるかどうかは、全てはSKYACTIV-X次第だ。
- 自動車を売るビジネスの本質 マツダの戦略
原理原則に戻ると自動車ビジネスもシンプルだ。商品とサービスに魅力があれば、新車を正価、つまり値引きせずに売れるから中古車の相場が上がり、その結果下取り価格が高いので、買い替え時により高いクルマが売れる。これが理想的サイクルだ。それを実現した例として、マツダの取り組みを歴史をひもといてみよう。
- マツダの決算 またもや下がった利益率の理由
売上高は増収だったが利益面の落ち込みが激しいマツダの決算。北米と中国市場の不振が響いた結果だ。今後に向けて、販売店改革とパワートレーンの刷新を進めるが、これが北米市場で実を結ぶかどうかが焦点となる。
- マツダの新型アクセラ、失敗できない世界戦略
新型Mazda3(アクセラ)はいわゆるCセグメント。フォルクスワーゲン・ゴルフをベンチマークとする小型車で、トヨタ・プリウス、カローラなど世界最激戦区で戦うモデルだ。マツダにとって失敗が許されないモデルであり、成功すればマツダのイメージを大躍進させる重要な位置付だ。
- Mazda3に見るマツダの第7世代戦略
北海道上川郡剣淵町のテストコースで開催されたマツダの雪上試乗会にMazda3が用意された。筆者はすでに北米での試乗会で運転して、十分以上に驚いた後なのだが、さらにもう一度驚かされた。
- マツダ、新型「MAZDA3」発売 “歩行姿勢”を引き出す構造に
マツダは新型「MAZDA3」を発売。国内では「アクセラ」の車名で展開してきたが、新型はグローバルで名称を統一。「歩行姿勢」を理想の運転姿勢とした車両構造技術などを採用している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.