Mazda3の最後のピース SKYACTIV-X池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)

» 2019年07月16日 07時01分 公開
[池田直渡ITmedia]

ベスト・オブ Mazda3

 ではそのHCCIというか、その改良版のSPCCIを使う理由は何かといえば、すでに述べた高圧縮によって燃料を高い効率で力に変換してやる(できる限り熱にさせない)ことに加えて、希薄燃焼を実現するためだ。従来のガソリンエンジンは14.7:1という理論空燃比に合わせてやらないと燃えなかった。そこからズレると排ガスはめちゃくちゃになるし、下手をすると燃焼室に燃え残りのスラッジが堆積して走れなくなる。

 燃えないのは、混合気を薄くした場合、従来の火花着火だと燃え広がる途中で燃料が足りず、火炎の伝播(でんぱ)が続かなくなるからだ。ドミノ倒しが続かない。抜本的に燃焼の仕組みを変えて、高温による燃焼室内の同時自己着火にしてやれば、ドミノもへったくれもない。薄い燃料を安定して燃やすことができる。その結果、熱効率が改善される。それは燃費の向上とほぼ同じ意味だと考えていい。

マツダ第7世代のコンセプトを体現する1台であるMazda3。実用ハッチバックではなくて、これはクーペの仲間に思える

 上で挙げた通り、理論空燃比は物理的に14.7:1に決まっているのだが、SKYACTIV-Xは平気で倍の30:1くらい、ピークでは50:1くらいまで燃料を減らしても燃やせる。20年くらい前に旧来の燃焼方式による希薄燃焼のブームが起きたが、多くのエンジンはスラッジ問題で消えて行った。

 その反省と克服策として、理論的には燻(くすぶ)らないHCCIを実現しようとした世界中のメーカーが苦しんだのは、自己着火させる領域の狭さである。例えばHCCIは、エンジンが冷えきっている始動領域で着火させるのは極めて困難だ。というか実質的に無理。自己着火を成立させるための条件は結構不自由で、低回転は温度不足でダメ、高負荷域は燃料が濃過ぎて暴走がコントロールできなくなる。高回転では反応時間が足りなくなって燃えないと、非常にわがままな性格で、面倒な技術の割に自己着火燃焼してくれる領域が狭過ぎてものにならなかった。つまりメリットが少なかったのだ。

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