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LOVOTを生んだGROOVE Xの“中の人”に聞く――イノベーションを起こす組織の法則とは(4/5 ページ)

» 2019年09月04日 08時00分 公開
[宮本恵理子ITmedia]

ゼロからビジネスモデルを創る“産みの苦しみ”

Photo ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズのアソシエイトディレクター、梅澤次郎氏

―― 最初のビジネスモデル検討ではどのような議論が?

梅澤 ゼロから生み出す前例のない製品ですので、選択肢はいくらでもありました。例えば、「B2Cだけで本当にいいのか? 医療分野をターゲットにB2Bもありではないか」「ECだけでいいの? 店舗はいらない?」というふうに。

 これら全てに着手すると、とても手に負えないことは分かっていたので、できることを全部出してから、「ビジネスとして捨てられる部分はどこか」逆に絶対に捨ててはいけない部分はどこなのか」を、絞っていきました。初期段階では、「LOVOTにとって、何を一番大事にするべきか」の認識合わせをすることが重要でした。業務フローは、今でもやりながら改善を繰り返しています。

畑中 今となっては、当時の議論が思い出せないくらい、いろんなことが起こりましたね(笑)。実際にわれわれも完成品を見たことがない段階で、事業サイドとしてマーケティングテストをしてみるという新しいニーズも発見できたり、クリエイティブチームがSlack上でいいアイデアを提案してきたりする。それをどこまで取り入れていくかという葛藤もありました。

 全部は採用できないにしても、検討してみる価値があると判断したら、合宿形式で集中的に議論したり――。オフィスが入っているビルの空き部屋を借りて「精神と時の部屋」と名付けて(笑)、ケンブリッジさんと夜な夜な話し込んだりもしましたね。「これからこの要件を取り込むと、どこに影響が出るんだっけ?」「本当にやりたいことは何だっけ?」と繰り返しながらだんだんと形ができてきました。

杉田 象徴的だったのが、「LOVOTを購入したオーナーが亡くなったケースについて考える」というテーマだったと思います。これは、具体的にお客さまがどういうふうにLOVOTと生活していくのかをとことん突き詰めて考えた先のテーマの1つでした。

 愛着形成を促し、オーナーの行動特性や生活パターンを学習するロボットには、きっとオーナーの魂のようなものが宿る。そうなると、例えばオーナーだった人がなくなった時に、その方のお子さんはLOVOTを見て何を感じるだろうかということを、深く検討したわけです。もしお子さんが「LOVOTを引き継ぎたい」と希望した時には、どうしたらそれが可能になるのか。

Photo LOVOTを外に連れて行くためのアイテムも開発中

 実際のところ、LOVOTはIoT機器の塊ですから、認証の問題を含め、相当のハードルがあります。でも、お客さまの使い方や思いに深く寄り添って想像することは必須の仕事だという共通認識がありますね。

梅澤 私はこの議論をしながら、「製品やサービスを強くする仕事」とは、こういうものなのだろうな――と考えていました。

 コンサルタントとしての合理的な考えに拠れば、「本当にいつ起こるか分からないケースのために、どれだけの仕組みを考える必要があるのだろうか?」という疑問がまったくなかったかというとウソになります。しかし、夜遅くまで何日も開発メンバーの皆さんと話し、代表の林さんからも「おじいちゃんが亡くなった後に、LOVOTを息子さんに引き継がせてくれよ」と言われた時に、これは実現しなければらないのだと強く思いました。強い製品、強い組織づくりのためには、非常に価値のあるプロセスでした。

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