クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

変革への第一歩を踏み出したスバル池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/7 ページ)

» 2020年01月27日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

もっと強く熱いメッセージを

 その上で、今回の技術発表会を振り返ると、やはり「なぜ長期ビジョンを語り始めたのか?」の説明はあるべきだったと思う。また個別の要素技術が、「兵站→作戦→戦術→戦略」のように階層を上がりながら樹形図的に集約していく先の明示は、もう少しハッキリ打ち出した方が良かったのではないかと思う。つまりは技術の目的の明示だ。例えば前述のDMSは、0次安全性に結びつくものとして、もっと象徴的に扱ってしまった方が分かりやすかったのではないだろうか。

 今回に限らないが、技術を誇る会社にはありがちな例として、スバルの説明は、基本的に階層構造の上の方より下の方にフォーカスしがちだ。今までとコミュニケーションのやり方を変えるのであれば、そこは変えなければならない。新しいやり方で成すべきことは、極端にいえばGAFAやそれに類する会社に、「スバルと組んだら面白いことができる」と思ってもらうことが目的だと思う。

 だとしたら、最も伝えたい相手には、資料に「ボルト締結部の剛性解析を徹底」した話があっても、何のことか分からない。もちろんそういう情報がいらないとは言わない。重要な要素だが、それが0次安全や1次安全に貢献して、スバルは事故0を目指す、人の命を守る企業だという部分がもっと強く熱いメッセージになってないと伝わらない。

先進運転支援システム(ADAS)の高度化により、死亡交通事故要因の65%を削減。さらに、事故自動通報機能や衝突安全性能の継続的な強化で、残る35%を削減していこうというシナリオだ(SUBARU技術ミーティング資料より)

 要するに「スティーブ・ジョブズ」とか「TED」からイメージされるような、明快なメッセージ性が必要だという話だ。伝えたい相手が例えトヨタを経由した提携先であろうとも、「スバルと組んだら面白いことができる」という意識を持ってもらえるかどうかは、今後のCASE領域での技術進化にとってとても重要だ。

 今回の発表ではスピーカーは2人。前半が中村知美CEOで、後半が大拔哲雄CTOだったのだが、切り口そのものが大きくは変わらなかった。中村社長が語るパートがスバルの思想と社会にもたらす価値を定義し、それを受けて大拔専務が、理想を実現する技術を説明する構成を狙っていたとは思う。しかし、ここまで述べてきた論旨に沿おうと思えば、もっとメリハリがあっても良かったのではないかと思う。

スバルの大拔哲雄CTO

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