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江本孟紀が語る「指導者・野村克也」の人材育成法野村克也と江本孟紀『超一流』の仕事術(2/2 ページ)

» 2020年05月30日 06時30分 公開
[瀬川泰祐ITmedia]
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長所のそばに欠点がある 野村監督の教えで王貞治を打ち取った 

――相手を見抜いた指導を、味方である江本さんにも行っていたんですね。他には野村監督からどのようなアドバイスを受けましたか?

 『超一流 プロ野球大論』の中でも触れましたが、野村監督はよく私に「相手の特徴を見ろ」と言いました。「相手の欠点が見つからないときは、長所のそばに欠点がある」と。当時の私は、強打者を相手にすると「相手は長所がたくさんあるし、欠点なんかない」と反論していました。しかしそんなときにも野村監督は「よく見るんだ。短所は相手の長所のすぐそばにある」と繰り返していました。

 その教えが身を結んだのは、私が江夏(豊)とのトレードで、阪神タイガースに移籍してからのことでした。私は阪神に移籍したことにより、(巨人の)王貞治さんと対戦する機会に恵まれました。王さんとはそれまでオープン戦で一度だけ対戦していて、ホームランを打たれていました。なので、いろいろなデータを調べても「欠点なんかない。どこに投げたらいいんだ?」と頭を抱えていました。そのときにふと「長所のそばに欠点がある」という野村監督の言葉を思い出しました。

 王さんの特長といえば、あの一本足打法です。「そうか一本足打法のそばに弱点があるのか」と思いました。それで、足を上げるタイミングをずらすことを思い付いたのです。ボールを投げるタイミングをずらすと、王さんが足を上げるタイミングもずれる。すると、タイミングが合わずに凡打になりました。だから私が王さんを打ち取ることができたのは、ノムさんの教えのおかげだったと思っています。

――江本さんは、江夏さんとのトレードで阪神タイガースに移籍しました。それを決断した張本人が野村監督だったわけで、「野村監督のおかげで王さんと対決できた」とおっしゃっていて愛情を感じるエピソードですね。

 愛情という表現が良いかは分かりませんが、江夏とトレードが決まったとき、いつもは来ないゴルフコンペにきてわざわざ僕にトレードを通告してくれました。

 「阪神から『江夏豊という大投手に見合う投手をくれ』と言われた。そうしたら江本孟紀しかいないだろう」と。そういって私をおだててくれたことがありましたね。

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現役時代の成績をひけらかさなかった

――指導者として人間力を感じますね。

 ただ、皆さんは、勘違いしているかもしれませんが、野村克也という人は、決して「完璧」な人ではないんです。むしろ欠点だらけ。でも欠点を(チームメートに)言いながら、それをカバーしていくという人でした。

 ただ面白いのは、戦後初の三冠王に輝くなど、数々の実績を上げてきた人なのに、野村監督は、現役時代の成績を選手にひけらかすことは絶対にしませんでした。

 監督のような立場になると、ついつい「上から目線」になりがちです。ですが、野村監督の場合は、現役時代の自慢を一切聞いたことがない。それは他の指導者との大きな違いですね。自分の現役時代の成績と比べて「こいつは俺より下だ」という見方はしません。「監督は別世界の職業なんだ」ということに、早くから気付いていたんだと思います。

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著者プロフィール

瀬川泰祐(せがわ たいすけ)

1973年生まれ。北海道出身。エンタメ業界やWeb業界での経験を生かし2016年より、サッカー・フットサルやフェンシングなど、スポーツ競技団体の協会・リーグビジネスを中心に、取材・ライティング活動を始め、現在は、東洋経済オンラインやOCEANS、キングギアなど複数の媒体で執筆中。モットーは、「スポーツでつながる縁を大切に」。Webサイトはこちらから。


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