クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

MX-30にだまされるな池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)

» 2020年10月19日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5|6       

フリースタイルドア

 さて、一度避けておいた問題に戻ろう。フリースタイルドアは、飛び道具だと思われるのがもったいない。実はメリットがたくさんあった。まず後席の乗り降りがとても楽だ。考えてみればセンターピラーレスなのだから当たり前と言えば当たり前。しかも乗降時に人体が開口部を通過する角度が通常のドアと違う。普通のドアなら後方から前へ向けて動線があり、室内に体が入ってから折り返して後退しながら着座するのだが、フリースタイルドアでは、居間の椅子に座るのと同じく、椅子の前方から後ろへ向けてお尻からアクセスする。体の動かし方がシンプルだ。さらに頭が通るルートが前方の「本来であれば」Bピラーがある側寄りなので、Cピラーに邪魔されない。頭入れが極めて良い。

 脱いだ上着をリヤシートに置く際にも、運転席にアクセスする位置から手が伸ばせる。通常のドアならば、リヤドアを開ける位置まで迂回(うかい)して移動しなければならない。という意味でもなかなかに快適なのだ。

フロントドアのラッチはリヤドアに付いているので、リヤドアが開いたままフロントを閉めようとすると、バウンドして返ってくる。マツダは側突対策はしっかりやってあるのでピラーレス構造は安全性に問題なしとしている

 もちろん後席に一人で乗り込んだり、降りたりするのはそれなりに大変だ。リヤドアを閉めないとフロントドアは閉まらない。だから後席からフロントドアを閉める必要があるし、降りる時はまず後席から手を伸ばしてフロントドアを開けなければならない。ただしフリースタイルドアのおかげで前後ともドア長が短く、隣にクルマがいる際には意外に使い勝手は良い面もある。

 インテリアデザインと素材の質感も良い。全体に北欧っぽいというか、シンプルモダンで上昇志向が匂わない上質感のあるデザインになっており、これも心地よかった。後席から眺めるインパネの風景がまたなかなか良い。

 本流であるMazda3及びCX-30と、このような形でMX-30を作り分けた主査に、どこをどう変えようと思ったのかを聞くと、意外な答えが返ってきた。実はこの3台は並行開発であり、MX-30の開発は他の2台の着地点があまり明確に分かっていない状態で進んだらしい。だから基準点というか、王道を二分する2台から、商品戦略的に立ち位置をズラすという概念ではなく、Mazda3やCX-30とは同じプラットフォームを使う並行世界の理想として作られたものだったということになる。

 さて、MX-30の総論としては、期待値が低かったのに、予想外の佳作車で驚いたというのが本音だ。これは年末恒例の「今年乗ってよかったクルマ」でも取り上げることになるだろう。本当に昨今は日本の自動車メーカーの実力向上ぶりがすごい。是非一度先入観を消して、ちょっと乗ってみてもらいたいと思う一台であった。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


前のページへ 1|2|3|4|5|6       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.