デジタル人材が欲しければ「社内序列」から脱却せよ 現実的な報酬制度とはデジタル時代の人材マネジメント(2/3 ページ)

» 2020年12月21日 07時00分 公開
[小枝冬人ITmedia]

 例えば、損保ジャパンでは、昇格に求められる在任年数の目安を廃止し、早期に課長職へ登用できる人事制度を整備している。デジタル化の波にさらされる中、伝統的な年功序列や規律が特徴ともいえる金融業界ですら、こうした動きは活発になっている。

仕事に値段をつける、という考え方への移行が必要

 既存の序列を脱却し、市場価値に連動する報酬制度では、従来の実績や能力が評価されてきた、“人にひも付く”仕組みではなく、“仕事に値段をつける”職務基準の仕組みが求められる。職務基準がより適している理由は、(1)テクノロジーの進展により当たり前のように起こる、仕事そのものの価値の変化への対応がしやすいこと、そして(2)デジタル人材の流動性の高さに対応しやすいこと──が挙げられる。

 特に(2)は、長期勤続を前提とし、さまざまな業務を経験させる中でゼネラルな職務遂行力を伸ばしていく人材管理の仕方では、求められるスピード感の中で組織パフォーマンスの最大化は難しいだろう。代表的なのは前述の昇格に必要な在級年数の仕組みだ。自社のDXを強力に推し進められる人材がいても、「昇格に必要な年数を経ていない」という理由で責任あるポジションを任せられない、という運用になってしまうのである。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 一方で、人材の流動性が低い業種では、こうした外部市場との連動を意図した制度が必ずしも自社に合わないのでは、と直感的に感じられる方もいるだろう。自社の年齢構成や事業形態を考えれば、「うちはメルカリやDeNAのようなIT企業とは社風も若さも違う」と感じるかもしれない。確かに本人の経験や成長、達成してきた成果に合わせて、キャリアアップし給与が上がっていく仕組みにより、「こういう人が出世できるんだ」という社内の共通認識が形成され、優秀人材の動機づけに一定の役割を果たしてきたのも事実である。

 さらには、伝統的な日本企業にとっては運用負荷や人材配置の点で、抜本的に職務基準へシフトするにはハードルがある。例えば、調達したいデジタル人材の規模が数人であるのに対し、全社規模で既存序列をひっくり返すような改革は難しいだろう。また、柔軟な配置が阻害されるというデメリットもある。職務基準にするということは、これまで営業で活躍してきた人材を事業開発へ配置転換する際に給与水準が変わる──などの変化が起こりやすくなるということだ。さまざまな部署への人材ローテーションを経て能力開発を行う、という会社ほどそうした運用のハードルは高いだろう。

現実的なアプローチを模索し続けることが必要

 以上で述べてきたように、伝統的な日本企業がデジタル人材を獲得するための処遇制度を整備するには、自社事業の状況を鑑み、既存人材の序列をある程度共存させるアプローチでないと現実的には難しい。抜本的に職務基準に切り替える以外の手法として、事業のステージに応じた以下3点のアプローチを紹介する。

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