一方、欧米企業では、人が辞めることを前提に採用を行っている。
企業は、課題解決に必要なスキルや能力を持つ人材を外部から採用する。採用の目的はあくまでも課題解決であり、数十年にわたって雇用を守ることではない。採用時に求めるスキルと能力が明確に定義され、その成果が達成されたときの報酬や昇格制度も体系化されている。
そのため、採用後に会社の都合で職務を勝手に変えることはできない。スペシャリスト(専門職)としての経験を買われることが採用の習わしであることから、職種変更は労働者のキャリアダウンや市場価値の低下にもつながる。よって、労働者も職種を変えてまでその企業に居続けることを望んでいないケースが多く、その仕事の必要性が無くなったり、余剰人員となったりした場合は、退職するのが一般的だ。
これが、外資系企業がドライだといわれる理由の一つだろう。しかし、労働者にとっても、自分が価値を提供できる環境でスキルアップし、企業と目的が一致する限り働き続け、お互いの利益が一致しなくなればおのおのがベストな選択を取る、という非常に合理的な考え方なのだ。これが、外資系企業が行っている欧米式の「ジョブ型雇用」である。
近年、大手日系企業でもジョブ型雇用が導入されたり、今後の導入が検討されたりしている。しかし、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は、それぞれの文化的背景と企業の成長戦略の上に成り立っていることを忘れてはならない。
自社に適した採用戦略を組み立てることこそが、企業を成長させるために最も重要だ。今後、日系企業においてジョブ型雇用といわれる専門職採用が普及しても、欧米のジョブ型雇用と同じ形式にはならないだろうと予測している。
全ての企業が一概に当てはまるわけではないが、企業の成長フェーズごとでも適切な採用戦略は異なる。
外資系企業、日系企業に関わらず、スタートアップ、またはベンチャー企業ではメンバーシップ型の採用が望ましい場合が多い。企業の創業期、成長初期においては、何が起こるか予測できないことが多く、売上を上げるために事業を方向転換することも起こり得る。
そのため、仕事の内容ではなく、企業理念に共感し、一緒にビジネスを大きくするために何でもやるというマインドの人が、事業の推進に貢献できるのだ。この場合、特定の経験や知識、スキルよりも、バイタリティー、企業や商品・サービスへの思いの強さが、採用時の重要な判断指標となる。
極端に言うと、仕事に対する人材募集ではなく、その会社に属して働いてもらうための採用となる。言うまでもなく、市場に対する人材獲得のアプローチも、それに適した方法で進めなければならない。選考の段階から、会社の成長における課題を共有し、企業成長のマイルストーンを擦り合わせ、今後の事業展開や会社の成長が目的の採用であるという視点を合わせることが不可欠だ。応募者が企業の成長を軸とした採用であることを理解し、企業の成長と共に自身の役割を変えていく決意がなければ、採用後のミスマッチが起きる可能性が高くなる。
一方で、ジョブ型雇用といわれる専門職採用が効果を発揮するのが、成長後期から安定期に入っている大企業だ。
企業の課題やニーズが明確化し、職種や役職ごとに期待される役割と成果が明確になっている時期である。この場合、入社後に期待する仕事での結果と数年先までのキャリアプランを、採用側がしっかりと描いておかなければならない。面接は人物像を確認するだけでなく、これらの期待値の擦り合わせを行う場である。
専門性を求める代わりに、企業は労働者がスペシャリストとして刺激を受けながら成長できる環境を提供し続け、要求した成果を達成した時の褒賞制度も整えておかなければならない。これが、ジョブ型雇用で採用した人材の活躍を促すための一つの方法であり、ひいてはその後の定着にも影響する。
会社の規模や資本形態、雇用形態などに踊らされず、企業の現状と目標をしっかりと見定めた上で、自社の目的を達成するためにベストな採用戦略を選択していただきたい。
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