クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

EV生産比率を5倍に増やすマツダと政府の“パワハラ”池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2021年06月28日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 株式会社にとって、株式や社債などへの攻撃、つまり兵糧攻めはあまりにも手痛い。まさに弱みにつけ込むやり方である。そうした結果、自動車メーカー各社は背に腹を変えられず、目標に上方修正を加えている。ここ最近発表された具体的数字を示すものを挙げてみる。

  • トヨタ 2030年に年間200万台をEVまたはFCVに(従来の2倍)
  • ホンダ 2030年に40%、2035年に80%、2040年に100%をEVまたはFCVに(内燃機関からの完全撤退)
  • マツダ 2030年に25%をEV(従来の5倍)
  • スバル 2030年に40%を電動化(EV/HV)(20年1月発表を据え置き)

 という具合で、あのトヨタですら、圧力に部分的に屈している状態だ。

 結局、本質的には、EVが普及するかしないかはマーケットが決めることである。かつての中国の人民服のように、法律で何を着るか、何を買うかを規定するのは異常なことで、自分の金をどう使うかは自分で決められるのが先進国の人権感覚であるはずだ。とすればメーカーがその数値を決めることには全く意味はない。売れるものが売れるだけの話ではないか。

 もちろん分け隔てなく全ての製品をより良くする努力は払うべきであり、EVの開発だけサボタージュするようなことがあってはならないが、現実にそういうことをしている会社はない。

 というか単純に「EVは簡単には売り上げが上がらないから」というシンプルな理由で、これまで重視されてこなかっただけのことだ。国内の業績を見れば、早くからEVに取り組んできた日産(記事参照)と三菱(記事参照)の決算がどのようなことになっているかは、過去の記事で確認してもらいたい。少なくともこれまでは、EVが全くビジネスにならないどころか足を引っ張ってきたことは、両社の決算が証明している。

 20年の決算で創業以来初の通期黒字を計上したテスラにしたところで、当該期に計上した黒字の倍額もの排出権取引利益があってのことで、お得意さまのステランティスが、テスラとの排出権取引中止を発表した今、来期の決算には厳しい見方も出ている。排出権利益などなくても、EVの販売だけで利益を出せるのは果たしていつになることか。

 もちろん情勢は変わるもので、未来永劫(えいごう)EVがビジネスにならないと言う気は筆者にはない。これからは少し様子が変わるだろうが、そういうタイミングでトヨタもマツダもスバルもEVを発表したわけだ。

 さて、マツダのEV生産5倍は、つまるところ今まで常識的見通しを発表していたところに、世の中の趨勢(すうせい)を若干上乗せし、さらに見通しを、政府に忖度(そんたく)して楽観的な数字で発表することにしたというのが現実なのではないか? それが筆者の結論である。

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