株式会社にとって、株式や社債などへの攻撃、つまり兵糧攻めはあまりにも手痛い。まさに弱みにつけ込むやり方である。そうした結果、自動車メーカー各社は背に腹を変えられず、目標に上方修正を加えている。ここ最近発表された具体的数字を示すものを挙げてみる。
- トヨタ 2030年に年間200万台をEVまたはFCVに(従来の2倍)
- ホンダ 2030年に40%、2035年に80%、2040年に100%をEVまたはFCVに(内燃機関からの完全撤退)
- マツダ 2030年に25%をEV(従来の5倍)
- スバル 2030年に40%を電動化(EV/HV)(20年1月発表を据え置き)
という具合で、あのトヨタですら、圧力に部分的に屈している状態だ。
結局、本質的には、EVが普及するかしないかはマーケットが決めることである。かつての中国の人民服のように、法律で何を着るか、何を買うかを規定するのは異常なことで、自分の金をどう使うかは自分で決められるのが先進国の人権感覚であるはずだ。とすればメーカーがその数値を決めることには全く意味はない。売れるものが売れるだけの話ではないか。
もちろん分け隔てなく全ての製品をより良くする努力は払うべきであり、EVの開発だけサボタージュするようなことがあってはならないが、現実にそういうことをしている会社はない。
というか単純に「EVは簡単には売り上げが上がらないから」というシンプルな理由で、これまで重視されてこなかっただけのことだ。国内の業績を見れば、早くからEVに取り組んできた日産(記事参照)と三菱(記事参照)の決算がどのようなことになっているかは、過去の記事で確認してもらいたい。少なくともこれまでは、EVが全くビジネスにならないどころか足を引っ張ってきたことは、両社の決算が証明している。
20年の決算で創業以来初の通期黒字を計上したテスラにしたところで、当該期に計上した黒字の倍額もの排出権取引利益があってのことで、お得意さまのステランティスが、テスラとの排出権取引中止を発表した今、来期の決算には厳しい見方も出ている。排出権利益などなくても、EVの販売だけで利益を出せるのは果たしていつになることか。
もちろん情勢は変わるもので、未来永劫(えいごう)EVがビジネスにならないと言う気は筆者にはない。これからは少し様子が変わるだろうが、そういうタイミングでトヨタもマツダもスバルもEVを発表したわけだ。
さて、マツダのEV生産5倍は、つまるところ今まで常識的見通しを発表していたところに、世の中の趨勢(すうせい)を若干上乗せし、さらに見通しを、政府に忖度(そんたく)して楽観的な数字で発表することにしたというのが現実なのではないか? それが筆者の結論である。
- 内燃機関から撤退? そんな説明でいいのかホンダ
ホンダは新目標を大きく2つに絞った。一つは「ホンダの二輪・四輪車が関与する交通事故死者ゼロ」であり、もう一つは「全製品、企業活動を通じたカーボンニュートラル」。そして何より素晴らしいのは、その年限を2050年と明確に定めたことだ。ホンダは得意の2モーターHVである「e:HEV」を含め、全ての内燃機関から完全卒業し、EVとFCV以外を生産しない、世界で最も環境適応の進んだ会社へと意思を持って進もうとしている。
- マツダの第6世代延命計画は成るか?
マツダはこのFRのラージプラットフォームの開発をやり直す決意をして、発表予定を1年遅らせた。ではその期間をどう戦うのか? マツダは第6世代に第7世代の一部構造を投入してレベルアップさせながらこの遅れ分をカバーしようとしている。キーとなるのが、17年に第6世代の最終モデルとして登場した、マツダ自身が6.5世代と呼ぶ2代目CX-5である。
- マツダMX-30で1800キロ走って見えたもの
そもそもMX-30に与えられた使命は、電動化の牽引役だ。年明けにはいよいよ国内でもEVが出る。これは以前プロトタイプに乗ったが、スーパーハンドリングマシーンと呼べる出来になるはずである。次の時代に向けた実験的取り組みは、全てこのMX-30がテストベッドになる。そのクルマの基礎素養がこれだけ好もしいものであったことで、期待は高まろうというものだ。
- 三菱の厳しすぎる現実 国内乗用車メーカー7社の決算(後編)
5月初旬に各社から発表された通期決算の結果を比較してみる本企画、前半ではトヨタ、日産、ホンダの3社を分析した。後編ではスズキ、マツダ、スバル、三菱を分析してみよう。
- 国内乗用車メーカー7社の決算(前編)
例年ゴールデンウィークが明けると、国内自動車メーカーの通期決算発表会が相次ぐ。業界全体に対しての今年の総評を述べれば、コロナ禍の逆境にもかかわらず、各社奮戦し、期首に懸念されていたような危機に陥ることなく、日本企業の底力を見せつける結果になったと思う。ただし、1社だけ惨憺(さんたん)たる結果のところがある。
- 再度注目を集める内燃機関 バイオ燃料とe-fuel
ホンの少し前まで、「内燃機関終了」とか「これからはEVの時代」という声しか聞こえなかった。ところがこの1、2カ月の間に「カーボンニュートラル燃料」の存在がにわかにクローズアップされ始めている。
- バッテリーEV以外の選択肢
バッテリーEV(BEV)やプラグインハイブリッド(PHV)などの「リチャージ系」は、自宅に充電設備がないともの凄く使いにくい。だから内燃機関はしぶとく残るし、ハイブリッド(HV)も然りだ。ただし、カーボンニュートラルにも目を配る必要はある。だから、それらを補う別のエネルギーを開発しようという機運はずっと前から盛り上がっている。
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