アイドルフェス「@JAM」仕掛け人に聞く「思い切って捨てる」覚悟アイドルプロデューサーの「敗北、信念、復活、成功」【前編】(2/6 ページ)

» 2021年08月21日 05時00分 公開
[柳澤昭浩ITmedia]
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メガヒット制作の舞台裏 予算の大半をMV制作に充てた

――ケツメイシの「さくら」というと、ファッションモデルの鈴木えみさんがMVに出演していましたね。あのMVはどんな背景で制作したのですか?

 当時のケツメイシは、デビューから音楽好きな若者を中心に火がつき、どんどんと盛り上がってきていましたが、誰もが知っているアーティストではなかったのだと思います。そんな中、「さくら」という誰が聴いても心に残る素晴らしい楽曲が出来上がりました。メーカーとしても、この曲を勝負所として、いかに多くの人に伝えていけばいいのかを、当時の(アーティストの発掘・契約・育成と、そのアーティストに合った楽曲の発掘・契約・制作を担当する)A&Rと何日も検討を重ねました。

 その結果、この作品のメッセージをMVに集約して届けようとなり、全体予算の大半をMV制作に充てることになったのです。これはある意味“賭け”でしたが、それを受けて動き出しました。

――曲の良さを映像によって訴求しようとしたわけですね。

 ケツメイシのメンバーたちともミーティングを重ねて、どのようにすべきかのアウトラインが出来上がっていきました。ケツメイシのメンバーから、当時の雑誌『PINKY』(集英社が発売していた10代後半から20代の女性向けファッション雑誌)の専属モデル、鈴木えみさんを起用しようと提案があり、相手役は萩原聖人さんになりました。

 この2人で、「さくら」という曲の中で語られるストーリーをビジュアルに変えていくことになりました。脚本は、当時のフジテレビ月曜9時枠のドラマなど数々の作品を手掛けるヒットメーカー岡田惠和さんに書いてもらい、それを基にMVを作っていきます。普通は1日で撮影すれば十分なことが多いのですが、この時の撮影は3日間に及びました。

――通常では考えられない予算をかけた上に、撮影日数も多くかけたのですね。

 今は、デジタルのカメラで普通に撮ってしまいますが、当時は映画用の「35mmフィルム」を使い、クオリティーにもお金をかけて進めました。撮影が1月だったので、MVに出てくる桜の木も実際に作ってしまいました。東京・八王子の土手に埋めていて、夜中に誰かに桜を壊されると困るので、警備スタッフを24時間体制で置くなど、大掛かりなプロジェクトになってしまいました。

――ゼロから作っていく大変な作業ですね。絢香さんの「三日月」も当時大ヒットしましたし、MVも印象的なものでしたが、同様に工数をかけた仕事だったのですか?

 そうですね。絢香の「三日月」では本当に5メートルほどの電灯を作ったんです。本人にはその電灯の上に座ってもらい、歌ってもらいました。それをクレーン車から撮りました。「CGでいいじゃない」と思われるかもしれませんが、やっぱりリアルさを出したかった。監督たちと共にリアルさにこだわったことで、すてきな表情や画が撮れたのではないでしょうか。

――おおがかりな仕事でしたね。橋元さんの仕事に対する評価や、プロジェクトの成功を測る指標とは何だったんですか?

 私たちが作ってきたものに正解はなくて……結局は曲の力だったり、アーティストのパワーだったり、そういうものがヒットするか否かに起因しているわけです。私たちは、曲やアーティストに、ちょっとしたキッカケを与えるだけです。MVでいうと、多くの人に見てもらいやすい作品を提供しただけで、皆さんが本当に共鳴したのは楽曲の良さなわけなので、そこに私たちの仕事に対する答えはありません。

 とはいえ、ヒットが出ればアーティストのブランドが上がることになります。ですから、そういった視点では私たちの仕事に意味があったかどうかの答え合わせをする方法はあったかもしれませんが、突き詰めていえば勝ち負けがはっきりしないビジネスであることも確かでした。

 私たちの仕事に対して対価を頂く意味でいうと、MVを作ったら、制作予算(経費)から、プロデュース費を頂くわけです。ヒットしなかったから返してくれとか、値引きしてくれといったことはありません。「動いた分だけ頂く」。そういうビジネスをずっとしてきました。

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