(1)相談窓口の担当者が社長や役員になっている
中小企業では、限られた人材や予算の中で相談窓口を運営していかなければならないため、社長や管理部門担当役員といった方々が窓口担当をされているケースがよくあります。あるいは、ハラスメント撲滅を目指して、自らが熱意を持って窓口担当に当たられる社長もいるでしょう。
そんな会社の事情は理解できるものの、相談者としての社員の立場からすれば、社長や役員に相談するのは、正直気が引け、足が遠のきます。そういう意味では、社長や役員は適任とは言えません。
(2)相談窓口の担当者に不信感がある
「相談窓口に相談したら、後々不利益な取り扱いをされるのではないか?」「相談窓口の担当者は本当に秘密を守ってくれるのか?」といった意見は実際に多く聞かれます。
このような不信感を払拭(ふっしょく)するためには、相談窓口担当者は、相談者が安心して話を切り出せるような、広く社員から信頼される人物であることが望まれます。
(3)そもそも相談する行為自体に不安がある
中小企業は大企業と異なり、異動先がない場合が多く、また部署異動したとしてもフロアはそのままであることも多々あります。そのような環境下では、ハラスメント相談をしたことが行為者に漏れて報復措置を受ける可能性があり、それを不安視するのは必然です。心理的安全性が確保された職場環境を作ることが望まれます。
(4)相談しても無駄
せっかく意を決して相談したにもかかわらず、何の解決にも至らなかった――という結論では、相談者の不満・不信感を増幅させるのみならず、ほかの社員にも「相談しても無駄」という意識が伝播します。
これは、相談窓口担当者のスキル不足がもたらす結果でもあり、担当者にはその役割を理解させ、相談スキルを向上させるような研修などを受けさせることも必要です。
相談窓口に相談がないのは上記(1)〜(4)のような理由があるためで、「相談窓口に相談がないこと=ハラスメントがないこと」と短絡的に判断すべきではありません。大切なことは、社員が相談窓口を利用しない理由をつきとめて利用促進の対策を打ち、何とか相談窓口を正常に機能させることで、ハラスメントの早期発見、早期解決を図ることです。
また、ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生の恐れがある場合や、ハラスメントに該当するかどうか微妙な場合であっても、広く相談に応じることも重要です。どんな些細なことでも、社員がどんどん相談窓口を利用するようになれば、ハラスメントの芽を早期に摘むことができ、大きな問題に発展するリスクは減少します。
ハラスメントは、基本的には職場内の問題なので、自社の相談窓口を利用して自社で解決するのがスムーズです。とはいえ、前述のような理由で社内の相談窓口を活用しない社員がいると、問題がこじれるケースも多いため、外部の専門家による相談窓口を活用することも検討しなければなりません。
外部の相談窓口は、相談スキルの高い専門家による対応であるため、深層に潜む問題が炙り出され、迅速な解決が期待できます。
社員にとっては、社内・外部の両方で相談窓口を利用でき、その方法も対面・電話・メール・オンライン面談など、いろいろな選択肢が準備されていれば、さらに相談窓口を利用しやすくなります。ハラスメント対策の肝は、何といっても相談窓口の正しい設置と、社員の利用促進。中小企業には大企業にはない、より細やかな工夫が求められているのではないでしょうか。
特定社会保険労務士。2007年1月社会保険労務士登録、15年5月特定社会保険労務士付記。00年1月に大槻経営労務管理事務所に入所以来、主に大規模事業所の担当者として給与計算や社会保険実務などの業務に従事。社会保険労務士の3号業務である相談業務に従事し、複数の事業所を担当する。前職が大学の文部技官であったこともあり、実務セミナー講師や執筆活動にも注力。学生への指導や教授の学会資料の作成サポートなどで培った経験を生かし、「わかりやすい説明・伝わる内容」をモットーに活動。専門分野は「ハラスメント」。趣味は、読書と散歩。「晴歩雨読」の生活に憧れている。
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