――勝てるイベントとは具体的にどんなものですか?
よく事務所さんから「うちのアーティストの並びの出演者は誰ですか?」と聞かれます。実際問題としてそれは普通のことです。場合によっては「その並びでは、ちょっと難しいです」といわれることもあります。それこそアーティストの格やステータスが関係するわけです。
そこに、名前も聞いたこともないアイドルがずらっと並んでいたら、「自分たちは客寄せパンダだな」と思われてしまうかもしれない。そういう場合、その人たちにとってイベントに出演することは、ギャラをもらう以外の意味はないわけです。「その条件ならギャラを上げてください」的な会話になってしまいます。
コンサートを作る上で、例えば300万円の予算があったとして、メインアーティストにほとんどを充てて、他のアイドルにはわずかしか払わないイベントの立て付けもあるでしょう。一方で、予算の300万円を、30万円ずつ10組に均等に割るイベントもある。作り方は、さまざまです。しかし現在の@JAMでは、「アーティストの並びは?」と聞かれることはまずないです。
――この10年間で完全にブランディングに成功したということですね。
そうですね。でも、最初はまさに「並び」しか聞かれませんでした。「誰が出るんですか。そこが出るなら出ます。交渉中であれば、保留にします」といわれることが多かったですね。例えばAさんとBさんが、どちらも「〇さんが出るなら」と言ったとします。それなら、「〇さんが出るってことにしちゃおうかな」とか……そんな駆け引きばかりでした。今はほとんどそういうことはないですけどね。
――この10年間を振り返ってみて率直な思いは?
41歳で今の事業部に移るまでは、会社員としてどう出世するか、いつ役員になるかを考えて仕事をしてきました。出世のことは強く意識していたのです。たくさん仕事をとって、売り上げを上げることばかり考えていました。
しかし現実は500人の組織から、数人の組織へ異動を命じられました。簡単に言うと、部下は誰もいなくなって、宅配便も自分で書いて自分で出す状況になったのです。そこで@JAMに出会い、失敗も繰り返しながら、少しずつ成功が見えてきた。規模も大きくなり、ブランド化されていきます。
14年からはプロモーションの一環として、自身も顔を出して動くことになります。自分が出て宣伝するなら経費もかかりません。自分自身が表に出ることによって、イベントと自身のブランディングが一緒になってきました。イベントの価値が高まれば自身の価値向上にもつながります。
私は、今54歳です。これから会社の社長になれるかというと、きっとなれない――。10年間やってきて、いま感じていることは、サラリーマンとしてどんなフィニッシュを迎えるのかということ。そして、これまで関わってきて、アイドルシーンの一端を担っている自負もあります。私がいる間に、@JAMだけでなく、アイドルシーンの担い手として、どう貢献し、寄与するかが今の仕事のモチベーションになっています。
10年前に抱いていた、出世したいなんていった思いは気付けばなくなってしまいました。当時思っていたことと真逆の自分になっています。
以上が橋元さんへのインタビュー内容だ。組織の中で仕事をする上で、本人が望まない異動は珍しいことではない。500人の組織から、たった数人の部署への異動。これまでの実績やキャリアが評価されない中、ゼロから挑戦した橋元さん。今や有数のポップカルチャーフェスに成長させた「@JAM」制作の舞台裏、橋元さんのキャリアは多くのミドルシニアの会社員にとって参考になるはずだ。
後編では、新型コロナ禍以前と以降、イベント運営はどう変わり、どう変わっていくかについて聞く。(敬称略)
柳澤 昭浩(やなぎさわ あきひろ)
18年間の外資系製薬会社勤務後、2007年1月より10期10年間に渡りNPO法人キャンサーネットジャパン理事(事務局長は8期)を務める。科学的根拠に基づくがん医療、がん疾患啓発に取り組む。2015年4月からは、メディカル・モバイル・コミュニケーションズ合同会社の代表社員として、がん情報サイト「オンコロ」コンテンツ・マネージャーなど多くの企業、学会などのアドバイザーなど、がん医療に関わる様々なステークホルダーと連携プログラムを進める。「エンタメ×がん医療啓発」を目的とする樋口宗孝がん研究基金、Remember Girl’s Power !! などの代表。
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