――ようやく成功にたどり着くわけですが、この2年間は新型コロナウイルスの感染拡大で多くの領域が影響を受けています。ビジネスの進め方は変わりましたか?
@JAM EXPOのような大きなフェスは1年がかりで準備します。会場に関しても、基本的には1年前から予約して準備を進めていきます。そういう意味でいうと何か問題が発生した場合、19年からの1年間の準備が台無しになるということです。
開催に向けては、8年間かけて築いてきたルーティーンのスケジューリングがあって、イベントはいつのタイミングで発表し、いつからチケット売るというルールが全て根こそぎ壊れました。
通常だと3カ月前から先行チケットを売り、1カ月前に一般発売という流れです。コロナ禍以降は、1カ月前にイベントの情報を出し、2週間前にチケットを売り始めるようになってしまいました。なぜなら、緊急事態宣言下で、イベント自体がなくなってしまう可能性もあるからです。
もし、イベント自体が中止になった場合、払い戻し手数料も含めて全てこちらの負担になってしまいます。そうであればなるべく売らない方がいいんじゃないか、ギリギリまでチケットを売らないのであれば情報も一気に出した方がいいんじゃないかなど、戦略も一変しました。稼ぎ方も変わりました。オンラインライブも含め、本当にエンタメは大きく変わってしまいました。
――この状況をどう感じていますか?
コロナ禍以降、できるだけ同調しながらやってきたつもりですが、気分としては今後もそこを勉強して広げていこうという気にはならないです。やっぱりライブの仕事は、お客さんがいて、演者がいて、その一体感と熱量が必須です。一日も早くその状況に戻したい思いしかないです。
オンラインライブとはいいますが、テレビ収録に近い部分はあります。お客さんからすればテレビを見ているようなもので、それは本来のライブではないと感じてしまいます。
――しかし、現実には今もコロナ禍にあります。ライブイベントへの影響は?
20年に開催した@JAM EXPOは、横浜アリーナで開催できなかったので、オンラインフェスにしました。他にも、かなりのオンラインイベントを開催しました。やってこそですが、やっぱりオンラインライブはビジネス的には厳しいなと思ってしまいました。
なかなか収益は上がらないですね。本当に一部のアーティストは別だと思います。例えばサザンオールスターズが横浜アリーナでライブをやりました。実際に開催すれば最大2万人のところ、50万人が配信を観ました。売り上げも青天井で良かったですねと捉えられますが、なかなか現実にそうはいかない。
成功しているアーティストがいる一方で、配信機材を用意して配信環境を作り、それを配信したところで、リアルのお客さんには届かない。特に規模が小さいアーティストは顕著です。また、成功しているアーティストも配信だけやっていればいいかというと、絶対にそんなことはないと思うんです。
――コロナ禍における規制当局のガイドラインでは、5000人を上限、収容定員の50%を上限(いずれか小さい方)とされています。どのような対応を取っていますか?
お客さんが収容定員の50%でも収益を上げるためには、ビジネスをどう設計していけばいいかということになります。この状況下にリアルでお客さんを入れる場合、今までのノウハウでは難しいのが実情です。お客さんが50%とは、もともとの集客の採算分岐点を70%とすると、50%に対しての70%、つまり35%あたりになってしまいます。35%で収益の採算分岐点を設計しなければならない。そうすると、1人当たりのチケット金額がとてつもなく上がってしまうんですよね。
加えて、同時配信、リアルとオンラインのハイブリッドで開催するとなると、配信の手配などの準備もしなければならず、その費用負担はお客さんに強いることになってしまう。結局、いろいろな状況を踏まえると、チケット代を従来の3倍ぐらいにしなければならないのですが、実際にはそうもいかずで……。
――そんな状況下で、8月27〜29日まで横浜アリーナで開催する@JAM EXPOの準備を進めているのですね(編集部注:インタビューは開催前に実施した)。
コロナ禍では、これまでやってきたことができない実情があります。この現状でできることをやろうと議論し準備してきました。
本来なら、メインアリーナに1万人ほどのお客さんが入れるようになっています。それとは別に、外に5つのステージがあるんです。大小さまざまなステージを、あっちに行ったり、こっちに行ったりするアトラクション的な、遊園地的なフェスなのです。
しかしコロナの影響で、大小さまざまなステージを作ることができず、ステージ数をいくつか減らしています。そうなると、多くのお客さんは基本アリーナの中にいてもらわなくてはならない。ロビーに密を作ってはいけないなど多くの対策を考えなければなりません。人流をコントロールし、密をつくらないため、アリーナ内にどういうコンテンツを作り、どんなラインアップにするか考えているところです。
――安全に開催されることを祈念しています。これからの橋元さんは、何を目指しているのですか?
10年前まではJ-POPシーンの傍らを走っていて、その後、ライブ事業でもJ-POPフェスをやり、それはそれで楽しかった。並行して@JAMをやっていている中、J-POPシーンにも関わることは良いモチベーションになっていました。ですが今は9割が@JAMの仕事です。
10年前の僕を知っている人は、「えっ!? アイドルやってんの」という感じかもしれませんが、今はアイドルシーンをけん引する立場の一人だと思っています。コロナ禍にあってもアイドルシーンをどう支えていくかが目下の一番の課題で、これに取り組んでいくつもりです。
以上が橋元さんへのインタビュー内容だ。21年の@JAM EXPOは、8月27〜29日横浜アリーナで開催された。東京での新型コロナウイルスの新規感染者は数千人に及び、全国各地で開催される音楽イベント(フェス)開催による問題も多く報道されたのがこの時期だ。
筆者が@JAM EXPOの会場に足を運び感じたことは「まもる」という言葉だ。運営主催者は規制当局による感染拡大予防ガイドラインを「守る」、ライブに参加するファンは音楽・アーティストを「護る」。開催から2週間後、@JAM公式サイトでは、このイベントによる感染者がいなかったことが報告された。一日でも早く、安全に、安心にライブを楽しめる日が来ることを願うばかりだ。
@JAM総合プロデューサー橋元恵一さんのインタビューを3回にわたりお届けしてきた。ライブ現場の取材を続けていく中で印象に残ったのは、@JAMという大規模なイベントプロデュースだけでなく、幾つもの個別アイドルのプロデュ―スにも関わっていることだ。彼がプロデュ―スしているアイドルグループのGran☆Ciel(グランシエル)のニューシングル「Message!」は、コロナ禍にあってオリコンデイリーチャート1位を獲得した。
想いだけではプロジェクトは成功しない――。これは橋元さんのインタビューで痛いほど伝わってきた。その一方で、「想いなくしては成功しない」こともまた、インタビューをしていて感じたことだ。橋元さんの言う「アイドルシーンをけん引する、支える」という言葉の奥には絶えることのない情熱がある。
柳澤 昭浩(やなぎさわ あきひろ)
18年間の外資系製薬会社勤務後、2007年1月より10期10年間に渡りNPO法人キャンサーネットジャパン理事(事務局長は8期)を務める。科学的根拠に基づくがん医療、がん疾患啓発に取り組む。2015年4月からは、メディカル・モバイル・コミュニケーションズ合同会社の代表社員として、がん情報サイト「オンコロ」コンテンツ・マネージャーなど多くの企業、学会などのアドバイザーなど、がん医療に関わる様々なステークホルダーと連携プログラムを進める。「エンタメ×がん医療啓発」を目的とする樋口宗孝がん研究基金、Remember Girl’s Power !! などの代表。
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