クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

化石燃料から作る水素は意外にバカにできない池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2021年09月20日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

水素の可能性はどの程度か?

 さてそういう情報と書き手のスタンス構造を説明した上で、水素の話をどう見るかというところが入り口だ。「水素なんて未来永劫(えいごう)可能性がない」というのはかなりプロパガンダ臭い。一方で「水素こそエネルギー問題を完全に解決する新技術である」というのは、上に書いた定義に沿えば、多分ポジショントークに当たるだろう。

 実際の話、インフラの普及でも、エネルギー当たりのコストでもまだ水素は「可能性の芽生え」という段階であり、現状の実力を持って、主要な選択肢の中にカウントするのは少々バランスが悪く感じる。筆者のバランス感覚でいえば「まだまだ越えなければならないハードルは多いが、次世代候補の一つに数えるくらいには見ておくべき」という話だと思う。このあたり丁寧に書いているつもりだが、それでもあちこちで「水素推し」呼ばわりされてしまうところで割とがっかりしているのだ。

 さて、その水素だ。大雑把に見て、「作る」「運ぶ」「使う」の3つの側面に分けて考えていくべきだろう。問題は鶏と卵的にこの3つが相関関係にあり、例えば「需要がないから、作らない。作らないから輸送手段が確立しない」みたいなことになっている。

 これらの内、トヨタは「使う」のところについてステップバイステップで、ソリューションを提案し続けている。金持ち企業でなければできないことだ。具体的には燃料電池(FC)スタックを開発し、主に燃料電池車(FCEV)MIRAIで数をさばきつつ、そのFCスタックをさまざまに外販拡張しようと考えている。トラック、バス、鉄道、店舗、工事現場などで使う移動可能な発電機など。そしてそうした汎用FCスタックとしては、従来比で革命的なコストパフォーマンスを提供することに成功した(記事:船からトラックまで 水素ラッシュを進めるトヨタ)

 というわけで「使う」のところではFCスタックベースのものはかなり実用段階まで到達している。もちろんコストはさらに下げられるに越したことはないが、少なくとも使う側が「場合によっては採算に合う」ところまで来たという意味では、バッテリー電気自動車(BEV)に比べてもさほど遜色ない。ただしこれはあくまで「使う」の部分で、「運ぶ」に属するインフラはまた別の話である。

 さらにこれに加えて、「内燃機関の燃料として水素を使う」水素エンジンの開発を行い、カローラスポーツをベースにしたレース車両で、スーパー耐久シリーズに「研究中車両」として賞典外で出場し技術熟成を図っている(再度注目を集める内燃機関 バイオ燃料とe-fuel)。コレに関しては、FCEVほどの完成度はまだないが、とりあえず補給と航続距離という問題をさておけば、走行中だけならレースが成立する速さがあることを立証して見せた。ただし、これはまだ近未来技術に類する部類で、FCEVの領域に並ぶにはまだまだ遠い。が、一方で、夢見られるメリットもまた多い。それは人類が140年にわたって開発改良し続けてきた内燃機関の技術を生かせる道につながるからだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.