クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

全然違う! トヨタGR86とスバルBRZ池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2021年11月29日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

提案型のGR86と共感型のBRZ

 さて、なんでこんなことになったのか? まずは分かりやすいスバルの方から説明しよう。スバルはスポーツドライビングをする層が何を求めているかをよく分かっている。だから期待された方向に沿って、ポテンシャルのベクトルを伸ばす車両セッティングを行った。

 だから誰にでも分かりやすく、乗りやすい。しかも電制スロットルの設定がマイルドで、山道で前にファミリーカーがいて、抜けないようなケースでは、3速でダラダラ走ることもできる。運動性能は高い一方でGT性も備えている。それはハンドリングも同様で、それはロードスターにはない特徴である。

BRZ

 一方GR86の方は、もうそういうユーザーへの忖度(そんたく)を止めた。「分からないヤツは分からんで良い」くらいの勢いである。GRのエンジニアに聞くと、セッティングは主にレーシングドライバーの佐々木雅弘選手が決めたらしい。本物の現役ドライバーが、レースシーンの最新スタイルで仕上げたわけで、そもそも普通のオーナーはそんな運転の仕方を知らない。だからGR86のセッティングが分かる人は本質的に多くないし、それが使いこなせる人も多くない。筆者もまねごとみたいなことができるだけで、そのスタイルでずっと走れといわれたらツラい。

 しかしながら、世の中にはレースエリートみたいな人もいる。例えばクルマの免許を取る前からカートに乗ってドライビングを覚えたような人だ。そういう人から見れば、これまでの市販スポーツカーは、タイヤのグリップ限界が低く、ボディ剛性も大したことがなかった時代に確立された古くさいスタイルの運転しか受け付けてくれなかった。レースの世界でオーソライズドされた最新のメソッドで乗れるクルマが、この世に一台も存在しなかったことになる。

 考えてみれば、トヨタはGRの活動を通して「レースからクルマを作る」と言い続けている。だからこそGRファクトリーのようなハンドビルド要素を量産に組み込んだ生産ラインを実現したり、GRヤリスの空力をリヤウイングとの整合性を取りながらまとめたりしてきた。その延長で考えれば、ドライビングスタイルだって、現在のレースシーンから直接移植してくることは筋が通った話である。

 つまり、GR86のこのハンドリングは、極めてチャレンジングで、良いか悪いか以前に、レース式のスタンダードを市販車に取り入れた「世界で初めての試み」であるとも言えるのである。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.