コロナ禍を追い風にして好業績を上げているヤマハ発動機。記事の前編【海外売上比率9割の衝撃 ヤマハ発動機・日高祥博社長が2年連続「DX銘柄」に押し上げた軌跡を追う】では、同社がいかにしてDXを推進してきたかに迫った。
同社は電動アシスト自転車や自動運転搬送車両などパーソナルモビリティでも存在感を発揮している。
後編では、「電動アシスト自転車は欧州などからの注文が急増して生産が追い付かない状態」という日高祥博社長(高は正確には「はしごだか」)に、同社が得意とするパーソナルモビリティの展望やEV(電気自動車)の先行きなどを聞いた。
――売り上げの6割を占めるランドモビリティの売れ行きが好調なようです。その要因は何ですか。
アセアン(ASEAN)向けが一番利益を出しています。ヤマハ発動機は、リーマンショック前後で販売のコンセプトを変えました。ショックの前は「作った分だけ売る」というビジネスモデルで、売れなかったら半値八掛けで、たたき売るというやり方でした。ただ、これだと工場もすぐには生産にブレーキを踏めないので、あっという間に在庫が膨れ上がって、資金繰りが苦しくなるのを経験しました。
それでリーマンショック後は、値引きして販売するのは止めて、デル・モデルといわれる「売れたら作る」やり方に変えました。
具体的には、販売店の在庫を「見える化」して、いま在庫がどこに何台あるかが分かるようにし、適正在庫分しか卸さないようにしています。現時点ではまだ完璧にはできていませんが、販売店が報告してくれればコネクテッド技術を使って可能になります。いまは販売店にこの方法で納得してもらい、理解していただけるのを待っています。
販売店は在庫を抱えたがるのが習い性になっていたので、欧州では2010年以降、適正在庫以上には卸さないようにしました。そうすると販売店側も「これで十分回る」ことに気付いてくれて、協力してくれる店が増えてきました。こうしたことを10年以上かけて各市場で取り組んでいます。
――電動アシスト自転車の市場が拡大しています。どこの地域で伸びていますか。他社にない特徴は何でしょうか。
国内市場は現在が年間80万台ですが、100万台になれば飽和状態になると思います。グローバルでみると、欧州市場が今すごい勢いで伸びています。この3年間で200万台が倍以上の500万台近くに伸び、これから30年までには1000万台を超える予測が出ています。
用途はいろいろですね。欧州では自転車のスポーツ領域がもともと盛んですが、その中でも、もっと楽しくラクにというので電動アシストのついたスポーツ車「eバイク」がかなり売れています。さらにマウンテンバイクやオフロードをする人も増えていて、その電動アシストの比率も増えているので、全体的にはまだまだ伸びるとみています。
他社との違いは正直なところ微差ですが、わが社のエンジニアに言わせれば、センサーリングが良くてナチュラルなサポート感だそうで、乗っていてぎくしゃく感がないのが特徴です。
――釣りやレジャーで船に乗るときに必要な小型船免許を取得するためのオンライン講習を受ける人が増え、富裕層向けだったマリン需要も拡大しているようです。その要因は何ですか。
コロナ禍によってリモートで働く機会も多くなり、外出ができない状況が続きました。土日に時間をどうつぶそうかと考える人も増えましたね。そこで、小型免許を取るためのヤマハボート免許教室の小型船舶免許オンラインコース「スマ免」が注目されています。
潜在的な釣りブームもあるので免許を取ろうとする人も増えているのではないでしょうか。もともとの分母が小さいので、ネットで少し増えればすぐに2、3割増加になります。免許を取った人には船に乗ってもらわなければならないので、次のステップを用意しないといけないと考えています。
マリンレジャーを楽しむのは日本ではアッパーミドル以上の富裕層が多い一方、米国では普通の家庭でも手が届きます。しかも今回は米国政府が助成金を出してくれたので、ボートを買う人が増えています。特にゆっくりと湖や川で楽しめるポンツーンボートが人気で、これに100〜200馬力の船外機がついています。日本でも富裕層の人は3密になる街ではなく海に出ようとする人も増えていて、豪華プレジャーボートを買っていただける人が増えています。マリン部門はコロナ前からも増えてはいましたが、コロナ禍でぐっと伸びています。
――ヤマハ発動機は小型モビリティが得意なようですが、今後の展開は。
小型というよりも、1人で移動する領域のパーソナルモビリティに注力しています。ヤマハ発動機は2輪よりも転倒リスクを低減するフロント2輪の3輪車「トリシティ」を出しています。
今後は転ばない、3輪を制御する技術を生かして1人か2人乗りのコンパクトで二酸化炭素を出さない領域の車にも力を入れるべく、いろいろな価値創造にチャレンジしています。
また、電動アシスト自転車と、2輪車の間に、2輪よりもっとライトで1人乗りで楽しめるモビリティもあるのではと考えています。パーソナルモビリティがキーワードです。
――カーボンニュートラルを達成できる自信はありますか。
カーボンニュートラルの目標は自信があるなしに関係なく、やらなければなりません。やるためにどうすればいいかを考えています。まだ30年もあるので、世界のモビリティメーカーが血眼になって技術開発をすればイノベーションも起きるでしょう。カーボンニュートラル燃料や水素燃料など、いろんな可能性はあるので、人類はこの問題を必ず克服できると思います。
――低速で自動運転で走る「ロースピードモビリティ」が注目されていますが、その用途はどんなところにありますか。
省人化に向け、低速の自動運転車の開発を目指しています。過疎地の中山間地など、民間のバス輸送ができなくなったところで走らせたいと考えています。運転手の人件費が高いためバス運行ができない地域があります。そこで村落と役場、スーパー、病院を低速で循環させ、中山間地の高齢者に喜んでもらいたいと考えています。
日本の公道は規制が多くあり、子どもが遊んでいたりすると危ないですから、自動運転車を走らせるのは簡単ではありません。そこで、まずは道路交通法の適用されない製造工場内の道を走らせてデータを蓄積し、知見を高めてから公道で走らせたいと考えています。
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