日本企業に使いこなせるのか 過度な「優秀な人材」獲得競争に覚える違和感の正体組織文化を壊すリスクも?(5/5 ページ)

» 2022年01月26日 05時00分 公開
[高橋実ITmedia]
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(1)「企業の10年後のあるべき姿」を考える

 「ロードマップを描く」といっても、どのように進めていいか分からない方も多いと思います。筆者はまず、経営者と人事で、以下のようなフレームで「企業の現状」と「10年後の未来の姿」を整理していくことをおすすめしています。

図は筆者が作成

 この四象限のフレームは、左側が「今の組織の姿」、右側が「10年後の組織の姿」を表しています。未曽有の将来のことを考えるのは難しいので、まずは左側の「今」のフレームから自由に議論していきます。単純に「今の組織のいいところ(素晴らしいところ)」「今の組織の悪いところ(改善すべきところ)」を徹底的に挙げていきます。ポイントは「議論をし尽くす」こと。全員が考えていることを、全て挙げてみてください。

 次に、右側の「10年後の姿」に移ります。未来の話は誰にも分からないので否定をせずに自由に議論してみてください。しかし、「なりたい姿」を議論していると、どうしても現実感に乏しい、聞こえがいい言葉ばかり出てくることがあります。そんなときは「なりたくない姿」について議論を移してみてください。この「なりたくない姿」の議論は、経営者の「本音」です。ここで出てきたものを逆に考えていくと「なりたい姿」のイメージがしやすくなります。

 このような簡易なフレームで議論の内容をまとめ、さらに議論を重ねていくと、徐々に組織の将来像がシャープになっていくはずです。大事なのは耳障りのいいきれいな言葉を作ることではなく、経営者と人事の目線を合わせることです。ここに力点を置いてみてください。

(2)既存社員の棚卸をする

 (1)で整理したフレームを踏まえて、現在の社員のスキルや能力を考えてみましょう。組織としての強みを発揮できる、既存社員の特徴があるはずです。これは、組織力を発揮するための強みにつながり、大切にしていくべきものです。活躍している社員の強みをさらに伸ばすプログラムを行ったり(選抜型の育成プログラムなど)、価値観を共有する社内施策を実行したり(ビジョンや評価制度への組み込みなど)、全社員に浸透していくような活動を行っていきましょう。

 一方、企業の将来に向けて既存社員では足りない部分がある場合、不足部分を社員に理解させ、身に着けてもらう必要があります。全社員が必要性を理解するためのトップメッセージを打ち出し(ビジョンや行動指針など)、強化施策を積極的に展開し(育成プログラムなど)全体のボトムアップを図り組織力を強化していきましょう。

 一定のロイヤリティーが醸成されており、組織において多数派の既存社員を動かすことは、組織変革には最も重要で、ゴールへの近道につながります。

(3)既存社員で「足りない」人材像を定義する(自社に必要な人材)

 目指す10年後の姿を考えると、既存社員の能力を高めて組織力を強化しても追い付かない可能性があります。これが自社の「新たに求める(採用する)優秀な人材像」なのです。既存社員の実力を伸ばしても事業成長スピードに追い付けなければ、新たな人材を採用しなければなりません。

 このようなプロセスを経て、初めて「自社に合った人材像」を定義できます。さらに、組織文化になじみ適合できること。これも合わせて採用要件とするといいでしょう。

 このように、自社に合う人材を採用するためのポイントをお伝えしてきましたが、最も大事なことは経営と人事が「目線を合わせて合意する」ことです。将来を見据えた人材の採用は、企業の事業戦略そのものです。納得のいく採用を行うためには、経営と人事が一枚岩になって目標を共有し、実行していくことが欠かせません。

 コロナ禍は、良くも悪くも企業の課題を顕在化させてしまいました。自社の課題がおぼろげながら見えてきた企業もあるでしょう。不透明な将来への不安がある企業は、今こそ経営と人事が一体となって、自社の事業・組織戦略を考えていく絶好のチャンスではないでしょうか。

著者プロフィール・高橋 実(たかはし みのる)

組織・人事クリエイティブディレクター/マイクロ人事部長

株式会社ティーブリッジェズカンパニー 代表取締役

法政大学 兼任講師ほか、複数企業の人事責任者として従事。

慶應義塾大学卒業後、株式会社ジェーシービーでインターネット黎明期の新規事業立ち上げに従事、その後NTT、トヨタのクレジットカード事業立ち上げに参画。その後人事に転身し、トヨタファイナンス株式会社、創業100年企業、株式会社HDE(現HENNGE株式会社)で人事部長を歴任したのち、「人事の複業」として複数企業の人事責任者としてハンズオンで企業の組織改革を手掛けている。

新卒、中途、アルバイト採用変革、外国人採用、人事制度改革、女性人材活用、組織改革プランの企画・実行、HR Tech導入、労務実務改革、組織健康戦略、戦略総務(BCP/リスクマネジメント/オフィスファシリティマネジメント)など、企業の中に入ってハンズオンで行っている。セミナー登壇・メディア出演多数。

「高橋実@マイクロ人事部長」としてnoteでも情報発信を行っているほか、Twitter、Linkedinでも活動している

note:「高橋実@マイクロ人事部長」

Twitter:みのる (高橋実)| マイクロ人事部長

Linkedin:Minoru Takahashi


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