赤字ローカル線存廃問題 「輸送密度」だけで足切りするな杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/8 ページ)

» 2022年03月20日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

いま一度「輸送密度」を理解しよう

 赤字ローカル線問題が報じられるとき、その指標として「輸送密度」が示される。鉄道事業者も、国土交通省も使う数字だ。報道メディアも「輸送密度」を引き合いに出す。

 しかし、この「輸送密度」は正しく理解されているだろうか。数字だけが印象に残り、鉄道の足切りに使われていないだろうか。

 輸送密度については、この連載で16年9月に解説した。なんと5年半も前だ。当時はJR北海道が「輸送密度2000人/日以下の路線は単独で維持できない。500人1日以下の路線はバスにしたい」と表明した頃で、「輸送密度とは何か」「国鉄時代より厳しい基準になった」という話をした。

ローカル線足切り指標の「輸送密度」とは何か?(16年9月2日付の本連載)

 今回はもう少し踏み込んだ話をする。

 「輸送密度」は輸送人数を示した数字ではない。1日1キロメートル当たりの平均値だ。ここを間違えると鉄道路線の価値を理解できない。同じ路線でも、計算のもとになる区間(距離)を変えれば異なる数字になる。数値の提供者によって見せ方が変わる。本来は取り扱い要注意な数値である。

 例えば、路線Aは距離が10キロメートル、輸送密度2000人/日、路線Bは距離が40キロメートル、輸送密度1000人/日とする。これだけを示されたら、路線Bは4倍の距離があるにもかかわらず、1000人/日は少ない。路線Bのほうが成績は悪いな、と思うだろう。先に存廃論議を始めるなら路線Bからだと思うかもしれない。この当たり、ずるい統計資料だと1000人/日と書かずに1000人と書いてしまうから誤解のもとになる。

 しかし、輸送密度は1キロメートル当たり平均だから、この数値に距離を掛ける。路線Aの1日平均輸送量は2000人×10キロメートル=2万人キロ、路線Bの1日平均輸送量は1000人×40キロメートル=4万人キロになる。実際の輸送量は利用者は路線Bのほうが多く、路線Aの2倍である。公共性を考えるなら輸送量の多いほうだ。

 輸送密度の小さい路線の方が、輸送密度の大きい路線より輸送量が多い。つまり、輸送密度だけでは鉄道路線の実態を把握できない。

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